朝日の色に染まったアジトの古びた白壁。その小窓からイズナは外の様子を眺めていた。晴れやかに透き通っている青空とは打って変わり、うちは一族のアジトは薄暗かった。それも、その筈だ。戦争中に和やかに過ごせる人間など居る筈がない。幾ら私が作ったホムンクルス達がアジトを警護しているからといえ気を抜けないだろう。それに、昨日の戦いで数人の忍達が犠牲になっている。死体が見つかってない者もいた。勿論、我が隊は全員、生還。カガミボーイの顔が凛々しくなって帰って来たから安心しましたね。でも、私の顔を見た瞬間、泣きながら抱き着いてきたのは笑った。

「イズナ。ちょっと、お話しても良いかしら?」

そんな事を考えていると、ふと背後から凛とした声が響く。後ろを振り向けば、流れるような長く美しい銀色の髪を束ねた、優しげな顔立ちの女性が立っていた。紅い瞳は太陽の日差しで宝石のように輝いている。浮世離れしたその見た目は人を引き付けるには十分な美貌だろう。戦場に居れば、その美しさに立ちすくむ者や、攻撃を躊躇する者がいても可笑しくは無い。
目の前にいる彼女の名前はアイリ―――アイリスフィール。Fateに出てくるホムンクルス。それを元にして目の前にいる彼女を…ホムンクルスを鋳造した。ホムンクルスというのは、人造人間。錬金術において、人の精と幾つかの要素を以って育てられる、子宮を用いない生命の誕生法によって生まれる者達なのだが、私が鋳造した場合、私の血液を使って彼らは出来ている。ちなみに、その肉体は陰陽遁のチャクラによって形成されている。年齢の概念はなく、誕生した段階で必要な知識と存在意義を自然から引き継いでいる。人間のように何年もかけて成長するような事は無く、それ以上成長する事も無い。完璧なホムンクルスとは人の手によって作られた自然の触覚であり、外的要因による死はあり得るが、星が健在で自然エネルギーのある限り寿命による死は無い。
ゆえに、目の前に居るアイリスフィールは、聖杯になる事もなく、誰かに殺されない限り生き続けることが出来る。
メタな話になるが、このNARUTOの世界ではチャクラが便利なので色々と出来るのだ。ゲイ・ボルクが作れたので、人手不足や医療忍者の少なさを愁いて、彼らを試しに作ったら本当に作れてしまった。そのお蔭で助かる命や人手不足が解消されたが、色々と問題も浮上してきた。しかし、今は関係ないのでその事については別の処で話をする。
そんな彼女に対して優しく微笑みながらイズナは返事する。

「うん?アイリか…どうかしたの?兄さんと何かあった?」

そう問うと、アイリスフィールは眉を吊り上げて答えた。

「そう!マダラったら、貴女が朝ごはん持ってこないから、ふて腐れて大変だったのよ。セラと口喧嘩して止めるのが大変だったわ!」
「はぁ…また兄さんはセラと喧嘩したのか…まぁ、喧嘩が出来るって事は昨日よりマシになったってことか。」
「えぇ、昨日よりも全然マシよ。あの人ったら燃料切れのランプを無理して隠そうとするから、本当に大変だわ。傷を治すのもそうだけど、あの部屋で寝かせるのだって、無理して仕事をしようとするからリーゼットが怪力で押さえつけて部屋まで連れて行ったぐらいだもの。」

アイリスフィールの口から出る兄の意地っ張り加減を聞き、イズナは頭を抱えた。会話に出てきたセラやリーゼットもアイリスフィールと同じホムンクルスだ。この三人はマダラの健康管理やイズナが居ない時の世話係として傍に置いている。人間の場合だと、兄の剣幕に押されて碌々、健康管理や診断が出来ず兄の言う事を黙って従うしかないが、ホムンクルスである彼女たちは鋳造者である私の命令が基本であり、時と場合によってしか他人の命令は聞き入れない。そのため、マダラが何を喚いたり叫んだりしても、無理やり押さえつけて健康診断などを行うので助かっている。そのお蔭で兄の体調を把握できるのは本当に良いことだ。その分、彼らの心労は絶えないだろうが…。


「それよりも、イズナの体調は平気なの?千手柱間や扉間と連続で戦ってるし…例のチャクラは使ってないわよね?私は貴女の健康管理を任されてるホムンクルスだから何かあったらちゃんと言うのよ。」

アイリスフィールは心配そうな声音で尋ねて来た。それに対して、イズナは静かに答える。

「大丈夫だよ、アイリ。あのチャクラは使ってない。」
「なら良いんだけど…。貴女の内に眠る特殊なチャクラ…あのチャクラは貴女の身体を確実に蝕んでる…まるで宿主を殺す寄生虫…ちゃんとした意志も持ってるみたい。通常のチャクラを使っても、それに対して呼応してる。このままだと―――…。」


―――そのチャクラに体を乗っ取られて…即ち、取り殺されるわ。


アイリスフィールの凛とした、嘘偽りない言葉は妙に耳に響いた。自分を蝕んでいる謎のチャクラ…幼い頃、母が殺されたのが切っ掛けで、使えるようになったチャクラ。初めは気にも留めなかったが、この頃、戦っている自分の身体が徐々に蝕まれていくように感じる。正直、自分の身体を蝕んでいる謎の力はチャクラ≠ニ呼べるかどうかすら怪しい。
大勢の人間を殺したから、私を憎んでる誰かが呪殺しようとしているのならば、まだ対処法はあった。しかし、これは違った。元から自分の身体に眠っていた力だ。それに、自分の中眠っていたからこそ分かるが、コレは目覚め始めている。恐らく、この力に完全に体を奪われた時…私は―――…

「なぁ、アイリ。私の身体は―――私は後どれくらい持つ?」
「もって7年って処かしら…それ以上、行けば貴女はそのチャクラに体を乗っ取られて…何をするか分からないわ。」
「そうか…享年28歳か…まぁ、この時代の忍の平均寿命だな…。」
「何言ってるのよ!イズナ!多くの忍具や忍術を発明した貴女の頭脳なら、そのチャクラだって、どうにか出来るわよ!」
「元から生まれ持った障害をどうこう出来るとは思えない。生まれつき病弱な人間が、深刻な病に侵されて、どんなに本人や医者が手を尽くしても死ぬように、このチャクラもそう言うモノなんだろう。何時も死と隣り合わせだから、何となくだが分かるんだ。恐らくこれが私の死因だ。」

自分の声とは思えないぐらい酷く冷めた声音で語った。一度、死んだ所為で自分の死に対して麻痺しているかもしれない。それに、このチャクラを取り除く時間…たった7年で取り除けないだろう。効率が悪すぎる。それならば、急ぎよく死を受け入れて、その準備をした方が良い。それを聞いたアイリは眉を下げて、振り絞るように答える。

「そんな……ッ!最初から諦めるの!貴女が死んだらマダラはどうなるの!!?貴女が死んだら彼はきっと―――壊れてしまうッ…!」
「だろうね。私が死ねば、今度こそ兄は独りになってしまう。そうなれば、うちは一族は崩壊…その隙に千手に滅ぼされる。そうならない様、色々と方法を考えなければ…。」

自分の死などそっちのけに、イズナは唯、一族と兄の事を考えていた。一族と言う枠は身を守るのに必要だ。うちは≠ニいう名字だけで他の忍との戦いの抑止力にもなる。勿論、殺される可能性も高くなるが、それ以上に居場所があるのか無いかで、天国と地獄だ。一族を滅ぼされ居場所のない人々の末路など惨たらしいのが忍の世だ。うちは一族が…兄の居場所が…無くならない様、考えなければいけない。出来れば、自分が死ぬ前に兄が私が居なくても生きて居られる場所を見出させなければいけない。そんなこんなで頭をひねってると、NARUTOの事を思いだしハッとする。

「木の葉隠れの里…そうか、そういう事か!」
「ど、どうしたの、イズナ。何か助かる方法が見つかったの?」
「いや、見つかってないよ…でも、未来を見出す方法なら見つかった。」

満面な笑みで答える私に、アイリスフィールは複雑そうな表情をした。けれど、気分が良くなった私はそんな彼女の表情を無視して、如何にして木の葉隠れの里を…たった七年で何処まで行きつけるか思案し始めた。






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