日が傾き、薄暗く成り始めている森の中。

「――――ハァ…ハァ…。」

カガミは息を切らしながら刀を構え、目の前に居る千手一族の忍を睨み殺気を飛ばした。その殺気に臆した千手の忍はそれを認められず、目を血走らせカガミに襲い掛かる。
「この餓鬼がァ!!!」
相手が怒りで動きが雑になったのを狙って、カガミは懐に入り、容赦なく急所を切り裂く。肉の嫌な感触を嫌悪しながらも、手を抜く事無く確実に相手に止めを刺した。ゴフッと相手の吐いた生温い血が頬に降り掛かる。刀を相手の身体から引き抜くと、そのまま千手の忍は倒れた。相手が息を引き取ったのを確認するため、二、三度、刀を突き刺し、反応が無いのを見ると、カガミは一息ついた。
そして、改めて周りを見回す。自分の殺した千手一族の亡骸が血反吐を吐き無造作に転がっている。どれもこれも、苦悶の表情を浮かべて。戦が始まる前、人さらいに襲われた村以上に酷い光景だ。
この光景を作ったのは自分だ。
そして、幻月さんの言葉を思い出す。

そうかい、なら、こういう光景はさっさと慣れときな。これよりも、もっと酷いモンをオレ達は作るんだからよ。

全く持って彼の言うとおりだった。これが、忍。これが、戦。これが、殺し合い。悍ましい以外の何物でもない。けれど、その中でも、一際輝いていた自らの師を思い出す。あの忍の神として謳われ畏れられた千手柱間を追い詰めた勇姿を。そのため、一概に戦を嫌悪することが出来ずにいた。そんな時である―――気を抜いたカガミは背後から近づく気配に気が付く事が無かった。そして…。

「よくも俺の仲間を殺ってくれたな!!!うちはの餓鬼がァ!!!」

そう怒声が聴こえ振り向けば、刀を振りかざす千手の忍がいた。その顔は憎悪に塗れている。咄嗟に躱そうとしたものの、足がもつれ尻餅をつく。千手の忍が何の躊躇もなく、刀を振り下ろす。殺される――と、カガミが覚悟し、目をつむった。
しかし、その時が来ることは無かった。その代り、何時も耳にしている声が響く。

「―――大丈夫か、カガミ。あと一歩で死ぬ処だったぞ。」

セツナだ――自分の隊の副隊長。彼を目にした時、カガミは目から涙が零れそうになっていた。

「ここは戦場だ。気を抜くな。」
「すいません…。」
「立てるか?」

セツナはカガミに向かって、手を差し伸べる。カガミはその手を掴み体を起こす。

「それと、顔が浮かないがどうかしたのか?」
「…その…セツナ副隊長は――この戦いをどう思ってます?」
「この戦いをどう思ってるか…唯の仕事であり、任務だ。それ以上は何もない。」
「相手が憎いだとか、そういう感情は無いんですか?」
「確かに昔はあった。そう父に教え込まれていたからな。けれど、それをイズナ様に咎められてな。憎しみは相手以上に自分を蝕む。その状態では何時か身を滅ぼす、故に割り切れ…と。」
「割り切る…?」
「そうだ。私情と任務を結び付けるな、区別しろと。相手も自分もお互い様…同じ穴の狢…責める通りは無い。憎むのは構わないが、餓鬼じゃるまいし表だってそれを相手にぶつけるな。その憎しみは隙と成り、それを利用され相手に倒されると一喝された。さっき倒した男の様にな…だから、カガミ。お前も生きたいなら割り切れ…此処で戦ってる奴らに、遠慮する事は無い。奴らもそれなりの覚悟を持って戦いを挑んでいる。憎しみやどうのこうののたまってる奴らを一々哀れんでいたら、死ぬことになるぞ。」

そう言われ、カガミは眠りから目覚めたように覚悟する。そうだ、此処にいる人間は相応の覚悟を持って戦っている。死にたくないのなら、此処には居ない。もとより、自分と同じような光景を作ったモノは大勢いるだろう。相手がどうあれ、敵であるならば殺す。そう割り切ることが大切だったのだ。確かに、戦は嫌悪すべきものだが、そんな物は関係ない。仕事なのだから。寧ろ、哀れむのは相手に失礼な行為だ。戦士ならば戦士らしく潔く戦う。そうイズナに教わっていた事を思い出す。

「セツナ副隊長…ありがとうございます。」
「礼は良い。行くぞ……っと、どうやら…戦いは此処までの様だな…。」
「えっ…?」

そうセツナは言い。カガミは引き連れてその場を後にした。



*



―――同刻


「ハッ―――!扉間ァ!前よりも早くなったじゃないか!」

そうイズナは嬉々として叫び、扉間に対して槍を高速で突き出す。その攻撃を扉間は刀で応戦する。柱間と違って、扉間はイズナの槍を視認できた。

「フン、そういう貴様は遅くなったのではないか?」
「フッ、口ではそう言ってはいるが、攻撃に転じれてないぞ?扉間クン?私が遅いなら、傷の一つぐらいつけて見ろ。」

イズナはそう扉間に挑発すると、扉間は口から鋭い針のような水を飛ばす。

― 天泣 ―

イズナは躱したものの、頬にかすり傷を受けた。背後では銃弾を喰らったかのように抉れている木。それを見たイズナの、表情は怒っておらず。寧ろ、歓喜している。

「つけてやったぞ…イズナ。」
「やるじゃないか…だが、まだ甘いぞ。扉間。」

イズナは頬の血を拭うと、槍を再び扉間にむけた瞬間、槍を握っている人差し指の先から白い閃光が飛び出す。その閃光を扉間は辛うじて躱したものの二の腕を掠った。しかし、そんな攻撃を物ともせず、扉間もまた刀で戦う。そして、再び剣戟は加速する。互いに必殺の一撃を放てさせないため、そこに隙など何処にもない。
なにせ、隙など作れば、一瞬で屠られる。風と風がぶつかり合う化のように行われる戦い。周囲の地形を利用し、飛びあい殺し合う二人の姿を見れるものなど、彼らの兄以外いないだろう。
そんな時でだ―――イズナの動きが止まる。扉間は勿論、彼女の首を討とうと迫るが、イズナは扉間の刀を槍で受け止めると大きく振り、扉間を遠くまで飛ばす。そして、こう切り出した。

「もう日が暮れる、なぁ…扉間。今回は此処までにしないか?」

そう口では言っているが、恐らく別の理由だと扉間は悟る。何時もなら夜が明けるまで、殺し合うのが普通だ。扉間も柱間が心配なため、ここで切り上げても良いが、つい意地が張り別の言葉が口から飛び出す。

「…断る。貴様は此処で果てろ、イズナ。」
「ったく、素直じゃないな…君は…。縛道の六十一、六杖光牢!」

そう呆れた声音でイズナは呟くと、六つの帯状の光が胴を囲うように突き刺さり扉間の動きを奪う。普通なら其処で止めを刺すが、何もせずイズナは扉間に背を向けた。

「ッ!イズナ…!逃げるつもりか…!」
「別にソレを解いて追ってきても構わないが……、その時は決死の覚悟で来い。」

着いてきたら確実にお前を殺す…そうイズナは殺気を飛ばしながら言うと、ほの暗い夕暮れ時の森の奥へ消えていった。



*



―――うちは一族 アジト。

黄昏の光が古びたアジトの外壁を優しく照らしている。
だが、アジトの中の空気は静かに冷え切ったまま、小さな採光窓からわずかに差し込む光だけを受け入れて、淡い薄闇の中にあった。
そんな中で、イズナはある部屋の前に居る。ドアノブに手を懸け、ゆっくりと戸を開けた。その部屋には大きな魔方陣―――その魔方陣はイズナが開発し設えたモノであり、周囲の自然エネルギーと魔方陣に刻まれている少量のチャクラが混ざり合い、陣の上に居る者の体力回復や怪我の治癒、毒などは完治できないが進行を遅らせることが出来る。医療忍術が使える者が少ないうちは一族のため、怪我や体力を短期間で癒すため生み出したモノである。
そんな中でも、この部屋の魔方陣はイズナが自らのチャクラを少量用いて刻んだもので、少し改良されている。その上には仰向けの姿勢で瞼を伏せ、依然、昏睡を続けている兄のマダラの姿があった。
私が千手柱間との戦闘の後、交代で現れたマダラは柱間と戦ったものの、ギリギリ追い詰めた処で須佐能乎…万華鏡写輪眼の使い過ぎでぶっ倒れたらしく、千手柱間も私のゲイ・ボルクの呪いもあるがスタミナ切れで倒れた。そのままの一族の者が二人を回収し、互いに指示を出すはずの頭領が使い物にならないため、その日の戦いは終わった。
その後は、部隊のアキラやヒカクの手によって、イズナが事前にマダラが怪我を負った時に運ぶよう指示しておいたアジトの部屋に寝かされている。
イズナは兄の傍に腰を下ろすと、眠るマダラの顔を見つめていた。

万華鏡写輪眼の酷使―――その代償は失明…もあるが、中でも須佐能乎は全身の細胞が痛むというデメリット付き。

通常の魔方陣は傷の治療などだが、今の魔方陣はそれに加え、須佐能乎による痛みの緩和、万華鏡写輪眼の失明を遅らせる程度しかできない。陰遁に属する万華鏡写輪眼は肉体的にも負担が大きい。そのため、仙術を応用した陽遁のチャクラを与える事でなんとかその痛みを和らげているが、何時まで持つか…それまでに、千手との決着を付けなければ兄の身体はボロボロになる。その所為で戦場で命を落とすかもしれない。
眼を移植したいのは山々だが、目を慣らしたり療養する時間があるか…目を移植している時に戦争が起これば目も当てられない。
そうこう考えていると―――わずかな身じろぎの気配が、静止した空気を漣のように騒がせた。
はたと目を見張るイズナの前で、マダラは苦しげに呻くと、ゆっくりと上体を起こした。

「………――イズナ……。」

顔にかかる髪を気だるげに払いながら、彼は茫洋とした眼差しで、傍らで見守る妹を見つめた。

「兄さん、具合はどう?」
「…………あぁ、お前の作った魔方陣のお蔭でもう大丈夫だ。」

そんな訳がない、須佐能乎を使えばどれ程の激痛を伴うか、イズナ自身が身を持って体験している。ほんの数時間眠っただけで痛みが治まる訳がない。そう問いただしたかったものの、兄の血色はどうにも普段と変わらず健常な様子である。傍から見れば平気そうだが、マダラの傍で暮らしている彼女の目からすれば痛みを我慢しているのは明らかだった。表情の変化が乏しいため気付かれないが、かなり無理をしている。分かっていたものの、イズナは指摘しなかった。指摘するまえにさっさと休ませた方が良いからだ。

「ったく、アキラが焦って連絡して来たかと思えば…万華鏡写輪眼の使い過ぎでぶっ倒れるって…まぁ、あの柱間さんも同時に倒れたって聞くから、止めを刺されなくて良かったね。兄さん。」

そうため息を吐きながら、安堵した表情でイズナは、色々な文字が描かれている魔方陣の上で体を休めている兄のマダラに優しく声を掛ける。マダラもイズナが生きていると確認でき、安堵しており、戦場で見せた厳しい顔から一変し柔らかい表情になった。

「すまねぇな…イズナ…つい調子に乗っちまった。」
「調子に乗るのは構わないけど、少しは自分の身体を大切にしてよね…今夜は私が兄さんの仕事とか見張りをするから、安心して休んで…後でご飯も持ってくるから。」
「あぁ、分かった…少し休む。」

そう兄は言うと再び横たわり、電池が切れた玩具の様に眠り始めていた。兄が寝たのを見計らって部屋の外に出ると、長い髪の毛を一本にまとめた男が居た―――うちはヒカクだ。

「ヒカクさんじゃないか。家の兄が世話になった。ありがとう。」
「いえ、副隊長として当然の義務です。それよりも……頭領の容体はイズナ様からみてどうですか?」

「あんまり芳しくわないが、魔方陣が機能してるから明日の戦闘には支障はないだろう。しかし、長引けば兄は不利になる。」
「そうですか…では、短期戦で決めると?」

「あぁ、千手側も長期戦を望まない筈だし…さっさと、決着をつけようとアチラも動いて来るだろう。」
「でしょうね…頭領の千手柱間が深手を負ったとなれば、アチラも長くは戦いたがらない…二、三日でこの戦いは停戦まで持ち込めるかもしれません。」
「そうだな…そうなれば本当にいい…。」

そう二人で廊下を歩き話している内に、赤色の光は無くなり夜の闇夜に変わっていた。




*




―――同刻 千手一族 アジト。



「ガハハハハ!!!包帯を巻くのは本当に久しぶりぞ!!!子供の頃以来ぞよ!!」

布団の上で、能天気に笑っいながら、左肩にかけて巻かれた包帯を見せてくる兄の姿を目にした扉間は肩を震わせ、怒鳴り付けた。

「笑ってる場合か!!!兄者!!!マダラと戦って気絶するなど言語道断だ!!奴も気絶したから兎も角、下手すれば首を撥ねられていたのだぞ!今度から気を付けろ!!にしても、イズナにやられた傷の具合はどうだ?」

そう扉間が尋ねると、先程までの能天気さと打って変わって真剣な顔で柱間は語り出した。

「うむ、まだ治っておらん。かなりの量のチャクラを使って治しているのだが…流石は回復阻害の術…いや、呪いか…。今の処、辛うじて戦闘に支障が無い程度には治したが…完治させるには相応の時間が掛かるだろう。」

「そうか……イズナにはしてやられたな。」

「全くだ。あんな槍を作り出したとは…鬼道のみならず、今度は武器とな。奴の事だ…もっと厄介な武器をこれから作り出す。気を付けるのだぞ…扉間。」

「兄者に言われずとも理解している。それよりも、明日の戦に備えてさっさろ寝ろ。仕事とかはワシがやっておく。」

「そうか。ならば、言葉に甘えて寝るとするか。後は頼んだぞ、扉間。」

「あぁ。」

そう柱間は言うと布団に再び寝転び、眠り始めた。柱間が寝たのを見計らって、扉間も部屋の外に出て、柱間の代わりに戦闘の被害や作戦を考え、この日を終えた。




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