周りにいた忍たちが消え、何もない草原にイズナと柱間は佇んでいた。
本来、他の忍達はこの二人が戦っていたとしても、各々の持ち場に行くはずだが、忍の神と謳われた千手柱間と瞬神と謳われたうちはイズナ―――同じ神≠フ異名を持つものの勝負が一体、どうなるか…気になるのは当然だろう。彼らは戦いを一時止め、イズナと柱間、両者を見つめていた。
そして、イズナは紅い魔槍を構え、互いに交わした微笑み契機に、柱間が動いた。

― 木遁・花樹界降臨 ―

柱間は高速で印を組むと、彼の足元から巨大な木が唸りをあげ飛び出す。それにイズナは捕まらない様、避けながら高速で柱間の元へ向かう。幾多の樹木が絡み合い、地面を抉りながら、地を覆っていく。先ほどまで何もない草原は見る影もなく地形が変わっていく。そして、その樹木から巨大な花が咲き、周囲に動きを止める花粉をまき散らす。鬱陶しいと思ったイズナは印を素早く組み、術を発動する。

― 火遁・業火滅却 ―

火遁で花弁を散らしながら、周囲の木々を燃やし、煙を巻きあげ視界を奪う―――と言っても、千手柱間の前では気休めにしかならない。きっと居場所を既に特定されている。なにせ足元は彼のホームグラウンドなのだから。すると、何か疑問に思った柱間は此方に質問してきた。

「その槍…一体なんぞ?」
「うん?この槍か?この槍は――――お前を殺すために作った槍だ。」

そう声のトーンを下げ答えると、一瞬にしてイズナは柱間の背後へ急接近し、弾丸の様に早い槍捌きで柱間の脳天を突き刺そうとする。

「むっ―――!」

それに気が付いた柱間は苦悶の声を上げ、頬を掠りながらも辛うじて躱し、刀を口寄せして、イズナの槍に対して応戦する。刀と長槍――両者の獲物は互いの首を討とうと繰り出される。そこに間断は無く容赦はない。放つ一撃は必殺の意志によるもの。だが、徐々にだが柱間は押され、ほんの一瞬――懐を開けてしまった。その隙をイズナが逃がすわけでもなく、強力な足蹴が柱間の上半身に直撃する。強力な足蹴によって柱間は空中に勢いよく飛ばされた。だが、瞬時に印を組みクナイや刀を口寄せしイズナに向けて、烈火の雨の如く武器を降らす。それをイズナは槍を用いて、周りに全て弾く。

「オレを殺すための槍か――中々、物騒なモノを作りおったの。にしても、さっきはちとビビったぞ。」

そう柱間は地面に着地し体制を立て直すと、イズナに蹴られた上半身を撫でながら軽口を言う。実際、イズナに蹴られた部分は肋骨が三本一気に折れ、数か所、内臓破裂が起こっていた。普通の忍ならば倒れていただろうが、柱間は持ち前の生命力とチャクラを用いて、瞬時に医療忍術を発動し怪我を治す。

「そりゃ、物騒なモノを作らないと、お前に怪我を負わせられないでしょ?実際、私の蹴った奴だって治ってるみたいだし…化け物か…アンタは…。」
「――化け物はお互い様ぞ。」
「そうだったな…化け物はお互い様だ!!!」

そうイズナは吠え、槍を再び両手で構え直し、柱間に近づき槍を振り下ろす。柱間はソレを刀で受け止める。
忍術では無く、唯の刀と槍の鍔迫り合い。一対一の武人の対決。
だが、迸る力が違う。激突する熱量が違う。踏みしめる足が樹木を穿つ。
空ぶった一撃の風圧が近くにあった樹木を切り裂く。
高速の剣戟は、もはやその戦いを眺めていた忍達の視力では捕捉できない。ただ、激突し相克しあう二人の余波しか見届けられない。
風が唸る。
あり得ざる二人の高速の剣戟に、大気が悲鳴をあげる。荒れ狂う嵐の真ん中に居るかのように、周囲の樹木は抉れ、蹂躙されていく。たった二人のヒトガタが白兵戦を演じているだけで、周囲の世界は崩壊する。彼らの戦いに慣れている筈の一族の者たちですら、その光景に息を呑み、驚きながら見つめていた。
そして、驚愕の念は柱間も同様である。彼の目でもってしても、イズナの槍は辛うじて視認できる程度。もとより、点に過ぎない槍の軌道。今では閃光になっている。これが忍界最速の忍―――瞬神と謳われた彼女の力。ソレを此処まで防ぎ切ったのは、今まで彼女と戦ってきて、知っていたからだ。忍術では兎も角、白兵戦では彼女に劣っている。お互い間合いに入れないため、攻めきれずにいる。元より、イズナも柱間に忍術を使わせないため――忍術を使う隙など与えるつもりなど無いのだろう。体術もそうだが槍術においても、彼女は優れている。マダラもそうだが、自分と同じくらいの力量の者に出会て、柱間は戦慄していた。
だが、驚いてたのは、イズナとて同じだ。槍と刀は非常に相性が悪いのだ。しかし、柱間はそんな相性の悪さを物ともせず、刀で応戦している。本気で殺そうとしているものの、決定的な一撃を与える事をできずににいる。このままでは、拮抗しているだけで終わる事が無いと悟ったイズナは柱間から数百メートル以上、距離を大幅に取った。そして、腰を低く屈め、片手を地面に、もう片方は槍を強く握る。
イズナの雰囲気が変わったことを察知した柱間は警戒し、尋ねる。

「お主―――一体何をするつもりだ。」
「何…槍のもう一つの使い方をするだけだ――この一撃…手向けとして受け取るがいい。」

黒い雌豹が疾走する。残像さえ見えず、突風となって柱間に向かって疾駆する。
両者の距離は数百メートル。それ程の助走を持って、槍を突きだす訳では無い。五十メートルほど距離を走ったイズナは、そのままあろうことか大きく跳躍した。
宙に舞うからだ。大きく振りかぶった腕に握られている紅い魔槍は禍々しい力を漲らせる。
空間がギシリ、と歪む。柱間は目を見開き、彼女の腕から放たれるソレが非常に危険な―――――下手すれば自分を殺害するには十分なものだと直感的に理解し、驚嘆する。
 ゲイ         ボルク
「突き穿つ―――死翔の槍―――!!!!!!!」

紡がれる言葉に因果の槍は呼応する。瞬神は弓を引き絞るように上体を反らし、怒号と共にその一撃を振り下ろした――――。
ソレは彼女があるゲームを元にして生み出した魔槍―――ゲイ・ボルク。彼女が長年、苦労して生み出した宝具の一つ。狙えば必ず心臓を穿つ槍。躱す事などできず、躱し続けるたびに再度標的を襲う呪いの魔槍。
イズナの全チャクラで撃ち出された破滅の槍は防ぐことも、躱すことなど―――不可能だ。
紅蓮の閃光が迫る。
一秒にも満たない時間、柱間は即座に親指を切り地面に掌をつけ、鬼の顔が掘られた五つの門を口寄せする。

― 口寄せ・五重羅生門 ―

山を軽々越えるかのような巨大な羅生門。ある程度の忍術を防ぐ防御壁。しかし、その防御壁を軽々とゲイ・ボルクは、紙を刺すかのように破壊しながら突き抜けていった。直ぐに破壊されるとは思わなかった柱間は内心、驚きながらも即座に印を組み、術を発動する。衝突する光の棘。天より飛来した破滅の一刺しが忍の神へ直撃する刹那―――。

― 木遁・榜排の術 ―

激突する槍と盾。あらゆる回避、あらゆる防壁を突破する死の槍。それが、ここに停止した。暴風と高熱を残骸として辺りに巻き散らしながら、必殺の槍は柱間の忍術によって止められる。地面より現れた鬼の形相を木で象られた巨人の顔は柱間を守護し、主を撃ち抜こうとする魔槍に対抗する。尾獣玉すら凌ぐ、柱間の知る限りでは突破された事のない守り…だが、この槍は木の巨人の顔を苦も無く削り、徐々に抉り取っていく。

「…………ぐぅっ―――うぉおおおおおおおお――――!!!!」

魔槍が木の巨人を貫く直前、柱間は気合の入った雄叫びを上げ、全チャクラを魔槍が抉り取って薄くなっている部分に集中させる。

そして―――――…。

ビキリ、と何かが割れる音が辺りに聞こえる。その瞬間、破裂音が響き、重々しい地響きが起こった。熱風が周囲にあった柱間の生み出した樹木を薙いで破壊し、まるで爆弾が爆発したかのような火柱が天高く昇る。

「――――――。」

地に降りたイズナは、ただ、煙の中から出てきた目の前にいる柱間を凝視する。…柱間は満身創痍だ。利き手では無い手を犠牲にしたのか、無事な手で庇っている腕は朽ち果てた木の様に、ボロボロになり、血がボタボタと流れ非常に痛々しい。額に巻いていた千手の紋が入った布は何処かに消え、代わりに血が流れている。しかし、イズナは満足しておらず、忌々しげに口を開く。

「―――防いだな、我が槍を。」
「何を言うか…木遁・榜排の術…アレは尾獣の放つ強大なチャクラの玉すら凌ぐ。それを貫きオレを満身創痍にしたのはお主だけぞ?」

そう少し息を切らしながら、柱間はイズナを褒める。しかし、イズナにしてみれば槍を防がれたので、褒められても全く嬉しくないのだ。満身創痍といっても、致命傷では無い。すぐに柱間ならば回復する。此処で致命傷を与え、治りを遅くさせればこの戦争を有利に進められる。そう思ったイズナは再び槍を構え怒気を漲らせながら叫ぶ。

「今度こそ―――その心臓…貰い受ける!!!!」

紅い槍に再びチャクラが迸る。それに察した柱間は直ぐに臨界体制を整え、印を組みその槍を撃たせぬよう木遁でイズナを攻撃する。しかし、イズナの方が早かった。迫りくる木遁の木々を躱し、柱間に向かってイズナは疾駆し、槍を突きだすと声高々に叫ぶ。

        ゲイ・ボルク
「――――――刺し穿つ死棘の槍!!!!!」

紅い魔槍の呪いの閃光が柱間に向かって直進する。柱間は木遁の木によって何とか躱そうとするが、易々と紅い閃光は木遁をすり抜け、柱間の左肩を勢い良く貫く。イズナは瞬時に心臓に当たらなかった事に気が付くと怒りを露わし、万華鏡写輪眼で柱間を睨み付け、そのまま槍の鏃を真上へ振り上げる。すると、紅い閃光は鞭の様にしなり、柱間を虚空へと放り投げた。柱間はそのまま何の体勢をとる事なく地面に落ちた。

「―――避けたな!!!柱間ァ!!!我が必殺の槍を!!!」

普段、滅多に怒らないイズナはこの時ばかりは怒りを表にした。千手に対する憎しみなどではない。ただ単純に槍を躱されたからだ。苦労して作った魔槍―――心臓を必ず穿つ槍はあろうことか躱されたのだ。もとより、ゲイ・ボルクは何かで防げるようなものではない。幸運の高さによって避けられる。故に千手柱間はかなりの幸運の持ち主―――まるで、何かに守護されているかのように、今なお生きている。この槍を使った相手は必ず殺していたのにだ…。イズナは険しい目で柱間が落ちた場所を見つめる。暫く立ち砂埃が消えると、膝を突き左肩を抑え険しい表情の柱間がいた。

「…呪詛…いや、お主のその槍―――因果逆転の呪いか…?!忍術では無いな!イズナ!」

お主は何に手を出してる!、と言いたげな声音と表情で見つめる柱間をイズナは先ほどまでの、殺気漲る怒りの表情で見つめるのではなく、どこか呆れた顔になり深いため息を吐き、ぼやく。

「あーあー…。ったく、躱されちゃったよ。何となくわかっちゃいたが、ショックだわ…苦労して作ったのに…幸運にも程があんでしょ。忍の神は幸運すら掴み取るのか…。」
「分かっているのか!イズナ!お主の作った槍は非常に危険なモノぞ!下手すればお主の命すら奪うかもしれん!」
「ふっ……私の心配をしてくれるのか…それは嬉しいが―――――まずは、自分の心配をしたらどうだ?」

そうイズナは言い放つと、柱間の首筋に槍を突き刺そうとしたその瞬間―――――柱間ではない別の刀がソレを防いだ。



*



―――柱間とイズナの戦いが起こる数分前。

「どうした、扉間。その程度か?木遁を使えぬ千手などたかが知れてるな。」

マダラは扉間に対して嘲りの言葉を口にしながら、悠々と扉間に向かって歩いている。
ソレを聞き、千手扉間は自らの運の悪さを呪った。自身の感知能力は強いと自負している。しかし、そう遠くまで感知できる訳では無い。だが、上空からマダラが単独で降ってくるとは思いもしなかったのだ。マダラの不意打ちによって数人の一族の者を失い、今も尚、命の危機にさらされている。本来ならば、マダラの相手は自身の兄である柱間がやる。マダラとて、自分よりも柱間を優先する。しかし、この時ばかりは執拗に扉間を攻め立てた。
マダラに対して、どう攻めるか思案している時、地面が唸り揺れた。何故揺れたかは、チャクラの流れなどで想像できる。兄の柱間が戦闘を始めたのだ。しかし、一体誰と…そう、詳しくチャクラを感知すれば戦っている相手は――。
もしや…兄者は、イズナと戦っているのか…?!
驚きだった。あのイズナが柱間に対して勝負を仕掛けるとは思わなかったからだ。彼女はあまり柱間と戦いたがらず、兄のマダラに戦いを任せている。それなのに、今日に限って勝負を挑んでいる―――柱間にしたいして何か対抗策でも作ったのかと思案し、嫌な予感がした扉間はマダラそっちのけで柱間の元へ向かった。マダラもまた扉間を追わなかった。


それを良い事に、柱間の元へ向かえば、案の定、目にしたのは、見たことのな紅い槍でイズナに攻められている兄の姿だった。



*



「イズナ!!!これ以上、兄者には手を出させんぞ!!!」

扉間だ―――間一髪、イズナの槍を刀で受け止めたのは…。イズナは舌打ちすると後ろへ後退する。

「邪魔するなよ、扉間。折角、良いところだったのに。」
「何が良い処だ…これ以上、貴様の好きにはさせん。」
「まぁ、良いか。戦うのは別に構わないが、柱間をそのままにしておいて大丈夫か?」
「どういうことだ…?」
「今の柱間は、うちの兄さんと戦うのはキツイと思うぞ?何せ、片腕使えないからな…。」
「何を言う…兄者は直ぐに医療忍術で……。」

そう扉間は言い掛けたが、口を止める。イズナが柱間に対して言っていた言葉を思い出したのだ。
お前を殺す為に作った槍だ
そりゃ、物騒なモノを作らないと、お前に怪我を負わせられないでしょ
まさか―――そう思った扉間はすかさず柱間に尋ねる。

「兄者!!!左肩の傷はどうだ!治ったか!?」
「ぬっ――…それがのう。ちと治りが遅くてな。」

すまんのう、と呟きながら柱間は未だに左肩を抑えていた。どんな傷であれ、時間が経てば受けた傷は治るのだ。それなのに治らない―――…何故治らないのか、すぐさま扉間は理解し、イズナに尋ねる。

「イズナ…貴様、その槍に回復阻害の術を仕込んだな。通りで兄者の傷の治りが遅い筈だ。」
「ご名答って、言っても少し違うかな。」
「何だと?」
「回復阻害ではあるが、術じゃない―――呪いだ。忍術と違って解除できないし、運がなけりゃそう簡単には治らないぞ。呪いの大本であるこの槍がこの世にある限りな…。」

そうイズナは笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。とても悪い笑顔でだ。まるで、扉間に対し、この槍を折ってみろと挑発するかのように。しかし、挑発に乗るほど扉間は馬鹿では無い。今気がかりなのは自分の兄である柱間だ。ここで、マダラが来ればますます千手側は―――柱間は不利になる。そのことを避けるため扉間は柱間に話しかける。

「兄者はいったん引け。その傷でマダラに会えば兄者とて危ないぞ。」
「マダラに対抗できるのはオレだけぞ!この程度の傷…問題ない!」

そう柱間は宣言すると、地面から立ち上がる。けれど、明らかに無理しているのは明白だった。生命力が高いとはいえ、此処まで治りが遅い傷などありはしなかったのだろう。今あるチャクラを左肩に集中させており、戦闘に力を割くのは難しい。それを理解している扉間は声を荒げる。

「兄者…!この期に及んで何を―――…!」

そう言葉を続けようとした瞬間、突如、隣の森で爆発が起こり、そこから此方に向かって千手の忍達が数人吹き飛んできた。そして、今一番、会いたくなかった男の声も響く。

「よくイズナのゲイ・ボルク≠ゥら逃げおおせたな、柱間。お前が弱っているとはいえ、手を抜くつもりは無いし、止めを刺す絶好の期を逃がすつもりは無い。さて、第二幕だ…柱間。戦いを続けるぞ。」



そして、うちはの頭領―――マダラの登場により、戦の第二局面が始まろうとしていた。



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