鬼灯一族の元で戦の微調整や準備を終えると、さっそく舞台となる場所へ兄と私の隊は二手に分かれ向かっていた。森を抜けている途中である―――何かが焦げた様な臭いがしたのは…。風に乗せられて色々な臭いもソレに混じっている…死臭だ。戦場を知っている人間なら嫌でもわかってしまう。焦げた臭いを発しているのが何なのか。その臭いを不快に思っている隊員は大半だろうが、嗅ぎ慣れてる為、誰も何も言わない筈だった。一人を除いて…。
「イズナ隊長…この焦げた臭いって一体…。」
カガミは訝しげにイズナに尋ねた。イズナは淡々と答える。
「…恐らく人の焦げた臭いだろう。だが、おかしいな。まだ戦闘は始まってない筈だ。」
「えぇ、戦闘が始まっている音はしません。この戦いとは関係ない…恐らく―――。」
「この先には小さな村があった筈だ。人身売買を生業にする忍集団か、将又、唯の山賊偶類か…どっちかに襲われたのかもな。てか、どっちもかわんねぇーな。」
そう淡々とイズナやセツナ、幻月はさも珍しくもなさげに、これから先に見るであろう場所について語りながら、木々の上を飛びながら走っている。それについて、カガミの頭は辛うじて追いついていたものの、何も言葉を発する事が出来ずにいた。
そして、森を抜けた先は―――焼け落ちた家々、黒焦げで辛うじて人間だと分かる死体の数々、何処にどういった家があったか、どんな人間が住んでいたかは分からない。しかし、死体が浮かべる表情の大半は、どれも苦悶に満ちたモノだった。その光景にカガミは絶句する。父親から戦の話を聞いてある程度、分かっていたが、想像以上だった。
「おー派手にやってんな。みろよ…。見事に男と老人の死体しかねぇ。」
そう幻月は言うと、繁々と死体を観察している。彼の言うとおり、金目になるであろう女子供の死体は一切ない。やはり、人身売買の忍集団の仕業か。忍が跋扈するこの世界。忍の中でもあまり忍術に長けて居なかったり、里を失った忍達は集団となり、マフィアやギャングまがいの事をする。今を生きるためだと、分かりはするが、ソレを良く思う者など居ないだろう。寧ろ、忍の恥だと思い忌み嫌うのが大半だ。
「隊長…どうします。コレをやった奴ら…我らが戦いを起こすと分かってやってますよ…きっと一族に濡れ衣を着せるつもりです!まだ、近くにいる様なので早々に片づけた方が良い!」
「確かに、これを口実に大名から報酬を減らされる可能性がある…やるぞ。」
「別に構わないぜ。こういう野郎どもは早々に殺しておいた方が世のため人のため…ってな。けど、大丈夫かよ?まだ時間はあんのか?」
「大丈夫だ。さっき術で兄に連絡した。まだ時間はあるそうだし、早々に終わらせるぞ。」
それを聞いた隊員達は四方に散り、チャクラの後を辿ってその集団を探した。
そんな中、カガミが固まっているのを見て、幻月が声を掛ける。
「うん?どうした?坊主?そんなとこで固まっちまって?こういうのを見るのは初めてか?」
「はい…初めてです…。」
「そうかい、なら、こういう光景はさっさと慣れときな。これよりも、もっと酷いモンをオレ達は作るんだからよ。」
カガミの正直な言葉を聞いて、幻月は励ますかのような声音ではあるが、何処か教訓めいた言葉を彼に掛けた。



そして、例の集団を見つけるのはそう困難では無く、すぐに見つかった。




*




「おい、急げ!もうじき此処も戦場になるぞ!」
森の中の木々に隠れ、そう一人の男は周囲を警戒しながらも商品≠馬車で運んでいる者たちに向けて叫ぶ。彼らは返事をせず、黙々と馬に鞭を打ち、移動の速度を早める。男は馬車の中に詰め込まれている女子供をの事を考えて細く微笑んだ。女と子供は良く売れる。故に、かなりの収穫を得れるため、さっそく上玉を大名共に売りつけようと考えていた矢先だった。一瞬にして、周囲に居た見張りや馬車を運んでいたものの達の首が有らぬ方向に曲がる。見間違いだと目をこすったが見間違いでは無く―――…。
「なっ…貴様は…うちは――――……。」
その光景を生み出した者を見て男が言葉を発す前に、一瞬にして景色が変わる。何故、景色が変わったか男は即座に理解した。そして、心の中でぼやく。

自分たちは、最後まで運は無かった―――神に見放された、と。






「本当に、本当にありがとうございます!」
あと一歩で売られそうになった女たちは、涙を流しながらイズナ達に感謝した。それを聞いて静かにイズナは答える。
「礼は良い。早々に此処を立ち去れ。あの地域が戦場になる…故に、近くにある大きな里に逃げろ。そうすれば戦禍は免れるだろう。私の影分身が其処までお前たちの護衛件案内をする。一文無しでもそれなりの優遇はされるだろう。」
瞬く間に、イズナの隣に影分身の彼女が現れ、女たちを案内していき、彼女たちの姿は見えなくなっていった。すると其処に、丁度、散って行たセツナ達も現れる。
「隊長。奴らの本拠地を潰して起きました。手練れの忍はおらず、チャクラを忍から少し習った程度のチンピラ共だったので、隊員に怪我はありません。ウォーミングアップには丁度良いでしょう。」
「そうか――なら、早々に戦場に向かうぞ。兄が待ちくたびれて、先に初めてしまったようだしな。私達は勿論――柱間の処に行くぞ。」
そうイズナは肩をすくめながらも、嬉々として言う。戦場で人を殺す罪悪感を感じながらも、戦う事に喜びを持つ、矛盾した心を携えて、最強の忍―――忍の神と謳われた柱間の元へと向かった。





*



覆い茂る森の木々を抜けた先に、その男と男に率いられた忍達が草原に武器を構えて佇んでいた。

「―――久しいの、イズナ。前よりもっと美人になったのではないか?流石はマダラの妹ぞ!」
此方に気が付くと爽やかな笑みを浮かべ、旧来の友人に会ったかのような、これから殺し合うとは思えない雰囲気で、千手の頭―――千手柱間は手を振りながら話しかけてきた。
「世辞を言っても何も出ないし、何もしないぞ。千手柱間。」
「世辞では無いぞ!事実だ!だからのう…マダラに―――。」
「だから、何もしないと言っている…。そういう説得は火の国の大名にしてはどうだ?元はと言えば、火の国が戦いを仕掛けて来たんだ…お互い大人ならば、さっさと私情を割り切って殺し合うぞ。」
ため息を吐きながら、イズナは言うが千手柱間は納得しておらず、顔を膨らませる。その顔の表情を見ていた千手も、うちはも、他の一族たちも忍の神の威厳ゼロと思っていた。
「ムゥ……殺し合わなければならんのか…。お主もやはり千手が憎いのか?」
「別に私は愛だの憎しみだの、そんな面倒な動機で戦ってる訳じゃない。唯の仕事であり、任務だ。殺す相手が例え、親や兄妹、親友、恋人だろうが、任務ならば殺す。お前だって、根本的にはそうだろ?そう教えられてきた筈だ。さぁ―――来ないならば、私から行くぞ。」
そう言われ柱間はピクリと反応する。この時代に生きている忍だったら誰だってそうだ。一族の中から裏切者が出れば、誰であれ一族の害になると見做し、殺害する。血がつながっていたとしても…だ。柱間は顔を俯かせると静かに言葉を紡ぐ。
「そうか――ならば、これ以上の説得は無駄か…しかし、オレは諦めんぞ!」
「そう言う事は兄に言え…、私に宣言しても意味が無い。」
顔を上げそう柱間は宣言すると、辺りの空気が一瞬にして変わる。それを察した周囲の忍達…柱間とイズナを除いて四方に散ってく。ソレを見たカガミは驚きながら、セツナに質問する。
「どうして、みんな下がってるんですか!?」
「戦いに巻き込まれるからに決まってるだろう!俺達は俺達だけで敵を殲滅するぞ!」
セツナは声を張り上げ、イズナの代わりに他の隊員達を引き連れ、此方に向かってきた千手一族の忍達を迎え撃つ。


こうして戦いの火蓋が切って落とされた。


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