一通り事務処理が終わり、隊員たちと久しぶりに顔を合わせる事になった。


集合場所は里の外れにある修行場。何故、里外れかと言うと、術等で居住区をぶっ飛ばしかねないからだ。
タジマ父さんが死んで以来、引っ切り無しに色々な処に呼ばれたり、書類を処理したりと忙しくて死にそうだった。それは、マダラ兄さんも同じで、兄の場合はもっと忙しいだろうけど…。
あー、それにしても、久しぶりに部下に会えるから楽しみ…私が鍛えた甲斐があって、そんじょそこらの部隊よりも速さや体術、近距離戦闘に関しては強いのが自慢だ。
だが、一つの問題が浮上した。それは…カガミ君についてだ。
私が率いる隊は常に最前線に配置される。そのため激しい戦闘が多い…その中に五歳児が付いて行けるのか疑問である。
けど、マダラ兄さんや彼の父親であるアキラの奴が大丈夫だと断言しているため、それなりの実力があるのだろう。今回の集まりで彼の実力を見極めさせて貰おうじゃないか。
そう思いながら、森の中にある修行場へ向かっていると、複数の懐かしいチャクラを感じた。どうやら、チャクラの感じからして皆元気のようだ。その中に例のカガミ少年のチャクラも混じっている…が、何故か一人でいる。
何故、独りでいるのかは、何となく予想できたため、ため息を吐いて進んでいると、木の陰から独りの男が現れた。
「お久しぶりです…。イズナ隊長。」
「よ!久しぶりだね。セツナ。」
彼の名前はうちはセツナ…私の右腕でもある青年で、年齢は18歳で同い年だ。
特徴はうちは一族特有のツンツン頭と鋭い目つき、片方の頬に着けてるヘッドギア。兄と同じ部類のイケメンに入る。彼もまた性格は兄よりもマシだが少々難しい性格をしている。
生真面目で少し短気な処や嫉妬深い処とか…認めた相手にしか心を開かなかったり…まぁ、昔よりも丸くなった方である。
だが、戦場では非常に冷静で、状況等の解析は私以上だ。其処を褒めたりすると顔を赤らめたりして非常に可愛い奴である。
「もう全員集合しています。今回は何を?」
「もう知ってるだろうけど、例の新人君の紹介とかフォーメーションの変更とかしようと思ってね。」
「そうですか。なら手始めに…例の新人の実力を見てからにしませんか?」
ニヤッと意地悪い笑みを浮かべながら何処か楽しげにセツナが言う…これは…。
「………五歳児の少年を虐めるのは、あまり感心しないな。」
「子供であろうと関係ありません。同じ戦士であり忍です。流石にみな手加減して戦いはしますが…どれだけ持つのか楽しみですね…。」
「・・・・・。」
カガミ少年は我が隊に伝わる新人いびりの犠牲になったのだ…まぁ、流石にアイツ等も手加減するだろうから大丈夫だろうけども…何分持つやら…。


*


木々が生い茂る森の中、武器を構えながら、幼い少年は思い出していた。
父の言葉と、初めて彼女≠フ姿を見たあの日を。


彼女≠ヘ女性でありながら一族の中でも屈指のくノ一であり、頭領の娘でもある。里の中で…いや、忍で彼女≠フ名前を知らない人間はいないだろう。幼い自分ですら彼女≠フ名前を里や外にある村、父からも聞いた。
彼女≠ヘ瞬神≠ニ呼ばれ非常に畏れられている。
彼女≠ェそう呼ばれるようになったのは、最強と呼ばれたかぐや一族の手練れの忍達を目に見えぬ速さで、それも何百といた数を一瞬で倒したからだ。
その姿を見た一族の人々が、敬意と畏怖を持って彼女≠フ事を瞬神≠ニ呼んだ。
彼女≠フ事を語る時の父は眼をキラキラと輝かせていたのが印象的だった。そんなおり彼女≠見る機会がやって来たのだ。『裳着』と呼ばれる成人を祝う儀で、彼女の姿が間近で見れると。そして、ついにその日がやって来た。
里の目抜き通りから南賀ノ神社までの道には彼女≠フ姿を一目見ようと浮かれ騒ぐ多くの人が集まっており、自分の低い身長と小さな体では人を避けてみれず焦っていると、背後から父が自分を抱き上げ肩車をして貰いようやく十二単で闊歩する彼女≠フ姿を見ることが出来た。
その佇まいは、優雅で美しく可憐で、息をのんだ。
結い上げられた髪には簪を挿し、頬や唇には白粉や紅を塗り、煌びやかな着物を身に纏い彼女≠ェ何処かのお姫様だと言われれば勘違いしてしまう程のものである。本当にくノ一なのか?彼女≠ェ本当に忍界で畏れられてる瞬神≠ネのか、正直、疑ってしまった。
しかし、その疑いはすぐに晴れる事になった。

*

「やっぱり五歳児独りに複数人が束になって、戦うのは大人気ない気がする…仕方ない…私が加勢に入ろう。」
「なっ!隊長が加勢に?!だったら、俺が…」
「大丈夫。忍術は使わないし、鈍っているであろう隊員達を扱くには持って来いの機会だ。行ってくる。」
「…ハァ…分かりました。お気をつけて…。」
セツナにため息を吐かれつつ見送られ、カガミ君の元へと向かう。
彼の戦いを遠くでセツナと一緒に眺めていたのだが、五歳児にしては中々良い動きをする。流石、アキラの息子であり、うちは一族の血を引いてるだけはある。
恐らくアキラの奴に基本的な事は教わっているのだろうが、手練れの忍を複数名を相手するには流石にきつく、追い詰められかけている。すぐさまカガミ少年を助けるため、自分が敵に回るとは思いもしない部下の背後へ急接近し一瞬で気絶させる。気絶する直前に部下は私の存在を感じ取ったようだが、少し遅かったな!
「え・・・あっ・・・貴女は・・・!」
「複数の敵を相手にするのは非常に難しい事だ…手練れでなければ追い込まれて嬲り殺される…こういう状況になった場合、立ち向かわず何が何でも逃げるのがセオリーだ。覚えておくと良い。…しかし、君は見事に私の部下を巻き、立ち向かった…追い込まれてはいたが、その動きといい戦い方は実に見事だった…―――良いセンスだ。」
職業が似たような事をやってる蛇さんみたいな台詞を吐いてしまったぜ!まぁ、私はあの人のお師匠さんであるザ・ボスの方が好きだけどね。
「……良い…センス…あ、ありがとうございます!!」
「礼は良い。さて、さっさと片付けるぞ。」
「はい!」
今まで休憩もせず戦っていたのに、目を輝かせながらカガミ少年は元気よく返事した。
これだから子供は…これが吉と出るか凶と出るかはこの子次第だが…。私は彼が成長し強くなるのを見届けなければいけない。彼があの地獄で無事生き残れるように…あの地獄に送り出す責任者として私は…。



*


「イズナ様、質問があるんですが…。」


隊員達をカガミと一緒に一通り扱き終わると、遠慮しがちに質問してきた。
「カガミ…様付で呼ぶ必要はもうない。君は正式に私の隊の一員であり、弟子でもある。師匠か隊長と呼びなさい。」
そう私は優しく言うと、頬を赤らめ何処となく照れた感じでカガミ少年は言いなおし、こう尋ねた。
「イズナ…隊長、さっき、独りになった場合立ち向かわず何が何でも逃げるのがセオリー≠ニ言っていました…けど、任務を遂行してなくてもですか?」
「当たり前だ。そもそも、戦場で一人になるのは死を意味する。特に君の様な子供は確実に殺されるだろう。それに、隊員が自分以外全滅したとなれば、任務どころではなくなる…戦場では任務以上に自分や仲間の命を優先しなさい。例え、批判されようともな。」
そう言うと、「そもそも、うちの隊が全滅になるなんて無いから、精々、迷子にならない様に頑張るんだな。」とさっきまで気絶していた隊員の一人がカガミの頭を撫でながら答える。そんな格好つけてる隊員に対してカガミや他の隊員も苦笑いし、セツナに関しては白い目でその隊員の事を見ている。
「だが、普通の忍よりも実力を持っていれば、一人で任務を遂行していても問題ない。一人の方が効率が良い場合もある。まぁ、そんな力を持つ忍は数少ない。それに、この班は前線で敵を叩くのが基本だ。君は迷子にならず、敵を倒し、生き残る事だけ考えろ。」
「はい!わかりました!」
そう返事し、キラキラと輝いた瞳でカガミ少年は私を見つめている。この瞳には、あの地獄はどう映るのだろうか。
私にとってはあの光景はよくある事≠ニして、済ましてしまっている。彼はまだ戦場に出たことは無いし、何の手入れもされていない地面に転がってる死体を見るのも初めてだろう。そもそも、私はあの光景を作る一端を担っている。彼は私に対してどう思うのだろうか。
憧れか、それとも、失望か。


こうして、彼と私の奇妙な師弟関係が始まった。



*



カガミ少年を弟子にとって以来、心底驚くような事とかは起こらず、平凡な毎日を過ごしていた。


彼の面倒を見つつ、隊を調整したりと色々したが、戦時中ではないためそれ程、疲れるような事は無かった。弟子であるカガミの修業に付き合いながら、過ごした日々は、実に平和なひと時だった。
だが、まるで、嵐の前の静けさのように不穏な空気が垂れ込めているようにも感じる。
何故そう思うのかと言うと、混乱を避けるため極秘で一部の人間にしかその事を知らされていないがが、あの千手一族が同盟を組もうなどと言う手紙を送って来たのだ。恐らく柱間さんの差し金だろう、扉間の奴が猛烈に反対しているのが目に浮かんだ。
その手紙を読んだ兄さんは酷く動揺していたが、周りの意見も相まって破り捨ててしまった。
あの兄弟の性格からして罠ではないだろうが、何かあるに違いない。そう思い、部下に探りを入れさせてみれば、近々、火の国と水の国が戦を起こすと言う物だった。
火の国が千手を雇えば、水の国は対抗するためうちは一族を雇うだろう。
恐らく無駄な争いを止めたいがために、手紙なんて送って来たに違いない。相変わらず、楽観的な人だな。紙切れ一枚で終わるのなら、こんなに戦いは泥沼化しちゃいない。
あの人も分かっててやっているだろうが、無駄だとは思っていないんだろう。
お互い長年の恨みがあるもの同士がそう簡単に同盟なんてできないだろうに。
恐らく、あの手紙に同意する様になる頃には、一族にとっても後先が無い時だ。それが何時になるかは、まだ分からない。だが、それは同盟なんて綺麗な物ではなく、唯の従属にしか過ぎない。それに、一匹狼気質のうちは一族を飼いならせる人間なんていないだろう。狼をそんじょそこらのペットの様に飼えるなんて思ったら大間違いだ。飼おうとしたところで、噛み付かれるのが目に見えてる。
彼らは、そういったのを理解した上で提案をしているのだろうか?いや、そこまで頭は回らないだろうな。
悶々とそんな事を考えていると、師匠、師匠、と舌足らずな声がした。声のする方に顔を向けると、鬼道の修業をしている筈のカガミが不安そうな顔をして足元で佇んでいる。
「カガミ?どうかしたの?」
「師匠、隊の人に聞いたんですが…。近々、戦が起こるって本当ですか?」
「あぁ、どうやら火の国と水の国の間で起こるみたいでな。それも、火の国はあの千手一族を雇うそうだ。いずれ水の国から此方に依頼が来るだろうな。全く初陣の相手が千手なんて君も運が悪い。」
そういうとカガミは顔を強張らせ、俯いた。
「怖いのか?」
「…はい、千手はうちはに対しては容赦がないと聞きますから…殺し方も酷いって…それに…。」
「……それは、お互い様だよ。」
「えッ!」
「うちは一族も同じ様なコトを千手に対してやって来てる…。そういう事を責める義理は相手にも、自分達にもない。それに…。」
「?」
「戦場と言うのは、普段は封印されている残虐性や闘争本能が顔を出す…。戦という名のもとに罪の意識は緩和されてしまう…だが、人を殺してショックを受けない者は異常者だけだ。どんな人間でも罪悪感はある。」
某蛇さんの受け売りだが、彼の言ってる事は正しい。例え、どんなに人を殺し慣れたとしても、罪悪感を拭う事なんてできない。どれだけ時がたとうが、殺した人間の顔を忘れる事なんてない。絶対に忘れてはいけない。



「カガミ…。君に教えてやれるのは、技術だけだ。むしろ、技術なんて然程重要じゃない。大事なのは心だ。心が脆ければ、体もまた脆くなってしまう。心と体は同じもの。だが、私は心まで君に教えてやることはできない。自分で生きて学びなさい。」


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