short*APH | ナノ

// なあ、もう一回好きって言って。


「お、今日はアールグレイか。ちょうど飲みたかったんだよな。」

その香りに誘われてかアーサー先輩も席を立ち、私の後ろへ来て手元を覗き込んだ。


そしてそのまま背後からぎゅっと抱き締められたのだ。


「え…せ、先輩…?」
「さっきの答えだよ。」
「へ?」

「俺の頭ん中、お前ばっかなんだけど。」





「…やだ、先輩が冗談なんて珍しいですね。」


少しの空白の後、やっとの事で紡ぎ出した言葉がそれだった。

イタズラにしては度が過ぎるんじゃない?
それなりに格好良くて人気のあるはずなのに色恋沙汰に疎い部長にしては色気づいていて、だからこそタチが悪い。

「冗談じゃねぇよ、俺は本気だ。」

本気でお前の事が好きなんだ、抱き締めたまま先輩は続けて耳元で囁いた。

人並みに恋話には興味はあっても男性に告白されるのはもちろん抱き締められることすら初めての私にとって、今の状況は大変に刺激が強くて心臓がバクバクする。
目の前が真っ白になりそう。
このままじゃドキドキでおかしくなりそう。
おかしくなりそうなのに、すごく心地よくて、すごく暖かくて、すごく嬉しい。

この気持ちは一体何なのかな?

「もうずっと前からお前の事が好きだったんだ。」

また耳が熱くなって、胸が高鳴ったのが自分でも分かった。

部長が、私のことを好き…?

ーオマエノコトガスキダッター

その言葉を反芻しながら目を閉じて先輩の事を考える。

アーサー先輩。
私の所属する魔術部の部長で、この学校の生徒会長。
ルックスも成績も運動神経も上の方で女の子にモテるのに鈍感なちょっと残念な人。
魔術の知識はとっても豊富で精度も高い。
不器用だけど真面目で、素直じゃないし怒りっぽいけど誰よりも優しくて面倒見の良い先輩。
私が落ち込んでたり困っていたりすると真っ先に気付いてくれて、不器用なりに一生懸命力になってくれる頼もしい先輩。
そんな先輩は私にとって憧れの存在になっていて。
気が付くと一緒にいて、一緒にいると楽しくて。
先輩の笑顔を見るとなんだか嬉しくて、もっと色んな顔が見てみたくなって。

隣にいると暖かくて、でも胸がちょっと切なくなって。
もっと近付きたくて、もっと欲しくて、もっと隣にいて欲しくて。
先輩の全部を独り占めしてしまいたくて。

子供の頃から魔法やメルヘンの世界にしか興味が無くて、恋愛なんて縁のない人生を過ごしてきた私だけど…これは確か。

「私も…先輩が好きです。」

そう告げれば先輩の腕に力がこもり、より強く抱きしめられた。
ちょっと、そんなに強く抱きしめちゃ苦しいですよ。
でも嬉しくて、嬉しくて、もっとぎゅっとしてほしい。

「…みょうじ。」
「何でしょうか。」
「なあ、もう一回好きって言って。」

「好き…です、アーサー先輩。」



つづく


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