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// 頭ん中、お前ばっかなんだけど


そして迎えた放課後、待ちに待った部活のお時間。
昼の話の続きを少しでも早く聞こうと私はHRが終わるとすぐに教室を飛び出して、旧校舎3階にある魔術部部室へと向かった。


だけど私が一番乗りだったようでまだ誰も来ていないみたい。
それどころか部室の鍵すら開いていなかった。

どうしようかなー、と廊下の壁に背中を預ける。
職員室まで行けば借りれるんだけどここからわざわざ管理棟1階まで行くのは面倒くさいんだよねー。
文化部(?)の私に先ほど登った階段を下ってまた登ってくるという行為はとても恐ろしい事に思えた。

「しょうがないわ、携帯でもいじって暇潰そ。」

なのでこのまま鍵担当のアーサー先輩が来るまで廊下で待つことにした。

待っている間に携帯で恋のおまじないについて調べる。
魔術部的にはこれも立派な部活動です。
『恋 おまじない』で検索すれば様々なウェブサイトで様々なおまじないが紹介されていた。

定番の好きな人と両想いになるおまじない。
恋人といつまでも一緒にいられるおまじないに、反対に別れるおまじない。
卒業までに恋人が出来るおまじないから違う部署の気になる人とお近づきになるおまじないまで本当に様々だ。

どうやら人間とはいくつになっても恋に悩む生き物らしい。


「…んだよ、もう来てたのかよみょうじ。今日はやけに早いな…。」

初めて見る魔術(おまじない)に夢中になっていて気が付かなかったけれど、携帯から顔を上げればいつの間にか部室の鍵を持ったアーサー先輩が目の前に立っていた。

「アーサー先輩!やっときた!昼休みの話の続き聞かせてくださいよー!」

待ちに待った先輩の登場に早く中に入りましょうと急かせば、先輩は「いつもこれくらい熱心だったらいいんだけどな」なんて呆れたように笑いながら部室の鍵を開けた。「まぁでも、まずは紅茶を淹れてからだな。」
「はいはーい。」

部室に入るなり、紅茶を淹れる準備を始める。
紅茶を淹れるのは部活の始まりの合図だから。

ケトルに新鮮な水を入れ、火にかけた。
その間に茶葉を選び、分量を計る。
部員3人のこの魔術部における私の役割はお茶汲み係。
紅茶の事に関しては姑なみに小うるさいアーサー先輩のお陰でだいぶ手馴れたものだ。
入部したての頃は紅茶なんてそんなシャレオツなものの淹れ方なんて全く分かんなくてそのたびにダメ出しされてたなぁ…

「あれ?そう言えばルー先輩は?」
「あー、あいつ今日は補講があるとかで部活来れないって言ってたぞ。」

と、いうことは今日はアーサー先輩と二人きりなのか。
これはこれは…心置き無く昼の話の続きが出来るというものですね。
でもおまじないが成功して先輩と意中の人が付き合う事になったら…今みたいにふたりでごはん食べたり一緒に帰ったり出来なくなっちゃうんだよね。
それはちょっと寂しいかも。

お湯が沸くまで座って待っていようとコンロに1番近い席に腰掛けた。

…って、だめだめ!
大好きな先輩の幸せはちゃんと喜ばなきゃ。

「そういえば先輩、私先輩を待ってる間ちゃーんと部活してたんですよ!」

と、そんな迷いを打ち消すべく早速さっきネットで知ったばかりのおまじないを教える。

「好きな人の後ろで3回パンダって唱えると両想いになれるんですって。」
「バレた時の言い訳に困るな。」
「パンダがお好みでないのなら同じく背後で『セミセラ、セミセラ、ソプラン』。この呪文1回でも効果あるらしいですけど3回詠唱すれば期待大だとか!」
「もし聞かれてたら急速に距離置かれそうだな、変人認定不可避だぞ。」
「呪文系がダメならピンキーリングとかは?」
「生徒会長自ら服装容儀違反してどうすんだよばか。」

先程調べたもののうち、3つを紹介したところでこつんと軽く頭を小突かれた。
まぁ確かに呪文は難易度高いし全校生徒のお手本たる生徒会長自らが校則で禁止されてる不要物の所持をするのもいかがなものかとは思うけれど。

「小突かなくていいじゃないー!だったらいっそもう相合傘とか消しゴムに名前書いて使い切るとか!長期戦になりますけど。」
「中坊かよお前は。ぜってーやんねぇからな。」

と、人がせっかく代替案を提案するもそれも却下。
贅沢なんだからー、と思うけれどきっと恋する男の子はデリケートなのね。
照れくさいのね恥ずかしいのね青春なのね!

「じゃあ私が代わりに相合傘書きますから先輩の心と脳内をジャックしているという姫君の正体教えてくださいよー。」
「断る!ほら、お湯沸いたぞ。」

と、そこでケトルから音が響いた。
どうやらお湯が沸騰したみたいだ。
もう、ちょっとは空気読んでよね!

「先輩のけちー!すけべ!眉毛!」
「おいこら、後ろ2つは聞き捨てならねーぞ。」

すけべと眉毛は認めなくてもケチは認めるんならちょっとくらい教えてくれてもいいじゃない、全力で協力するのに。
悪態をつきつつも私はお茶を淹れるために再び席を立ち、ポットとカップ2つを温めた。

陶磁器のポットに熱湯を注げばアールグレイ特有の柑橘の香りがあたりに漂う。
元々この香りはあまり得意ではなかったんだけど、以前アーサー先輩がいれてくれたアールグレイがとても美味しくて、とてもいい香りでそれ以来1番好きな紅茶となっている。
アーサー先輩が淹れる紅茶、本当に美味しいんだよね。

「お、今日はアールグレイか。ちょうど飲みたかったんだよな。」

その香りに誘われてかアーサー先輩も席を立ち、私の後ろへ来て手元を覗き込んだ。


そしてそのまま背後からぎゅっと抱き締められたのだ。


「え…せ、先輩…?」
「さっきの答えだよ。」
「へ?」

「俺の頭ん中、お前ばっかなんだけど。」



つづく



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