バウヒニアの花言葉 | ナノ


♪Sie sind das Essen und Wie sind die Jäger〜

「んぅ…すいませ…そこ、右に…家が…いえがー……イェーガー!…はっ、なんだ携帯か…!」

けたたましく鳴り響く携帯の電子音に私は起こされた。
こんな時間に何だと思い寝惚け眼でディスプレイを見れば『着信中 香くん』の文字。
こんな夜更けに何の用だろう。
画面に表示された現在の時刻は土曜日の午前2時30分ジャスト。
大多数の人が寝ている時間だ。
電話が掛かってくるには些か非常識な時間帯だと思われる。
確かに香くんは日頃から無茶ぶりばっかしてくるけどこんな非常識な時間に電話を掛けてきたことは今までに一度もない(と思う)んだけど…。

「はっ…!まさか…!」

まさか彼の身に何かあったんじゃ…!
イレギュラーな着信につい悪い風に考えてしまう。
例えば寝ていたら苦しくなって自力でどうしょうもない状況だとか。
または家に強盗的な何かが入って遠回しにSOSを出しているんじゃないか、はたまた夜中徘徊してたら野良猫の襲撃を受けて瀕死なうだとか。
とにかく彼の身に何かが起こっているんじゃないか、そう思うといてもたってもいられなくて。
寝起きのぼんやりした頭を無理矢理稼動させ、通話ボタンをタップした。
一体何があったんだろう…!

「もしもし?大丈夫!?何かあったの香くん!?」

彼と繋がった事を確認すると私はすぐにそう尋ねた。
我ながら寝起きとは思えない覇気のある声だったと思う。
慣れない状況に言い知れぬ不安を感じるのは仕方のないことなんじゃないかな、人間だもの。

「あ、なまえ?いや別に何も用はないけど。」

しかし聞こえてきたのはいつも通りの彼の声。
色々覚悟してたから、拍子抜けしてしまう。
いやまぁ私が勝手に自由の翼…じゃないや、想像の翼をはためかせてただけなんですけどね、分かっちゃいるんですけどね。

「ていうか寝てた的な感じ?」

…ええもちろん寝てましたよ。
今何時だと思ってるんですか。

何も無かった事に安堵しつつも何もないのに私の睡眠は妨げられたのかと思うとなんか妙に腹立たしかった。
いや、重ねて言うけど何も無いにこしたことはないんだけどね!

「睡眠不足のみょうじなまえが午前2時30分くらいをお知らせしまーす。」
「…起こして悪かったって。それよりさ…」

睡眠妨害の恨みをちょっぴり滲ませ某動画サイト風に現在の時刻を告げれば彼は一応謝ってはくれた。
ちょ、人の貴重な睡眠を妨げといて誠意が足りないぞ。
と言いたいのはやまやまだったが彼がまだ何か言おうとしていたためぐっと堪えようと思う。

「それより、何?」
「ん、今からお前ん家行くから出掛ける準備しといて的な。」

…は?

「そういう感じだから、んじゃ…」
「いや、いやいやいやいや!ちょっと待てや!」
「なに?まだ何かあんの?」

言うだけ言って切ろうとする電話の主を慌てて引き止める。
まだ何かあんの?じゃねぇよ!
一体今何時か分かってるんですか。
もう午前2時回ってるんですよ、丑三つ時なんですよ。
というかこんな時間から何処に行くってんだ。

キーッ。
不意に聞こえてきたブレーキ音。
嫌な予感がしてカーテンを開けて窓の外を見れば携帯を片手に自転車に跨った香くんが手を振っていた。
…何も用なくないじゃん、用事ありまくりなんじゃん、というかもう着いてんじゃん。

「Heyなまえ、かもーん。」

はやくして♪はやくして♪
ペンダント♪捨てちゃうよ♪
私が窓から顔を覗かせたのを確認した彼は、耳に携帯を当てたまま手持ち無沙汰自転車のベルをリズムに合わせて鳴らし始めた。
やめろ、近所迷惑にも程が有る的な!
もう2時まわってるって言ってんだろ!
あといい加減ペンダント返せ!
…これはもう行くしかないパターンですね、分かりたくありません。

「…今から着替えるから10分待っててくれるかな。サイレントで、オーケー?」
「おーけーおーけー!」

窓の外にいる彼にそう告げると、私はすぐに電話を切り、床に脱いだままになっている服に着替え始めたのであった。

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