バウヒニアの花言葉 | ナノ


「あ!流れ星発見的な!」

と、私がひとり複雑な心境に陥る中、彼は夜空を指差しそう叫んだ。

「あ、また流れた!あっちもだ!」
「えっ?うそ?…ほんとだ、すげっ!」

興奮気味な香くんの声に並んで夜空を見上げれば、確かに彼の指差す先ではまるで雨のように星々が降り注いでいた。
そういえばニュースで夜中から明け方にかけて東の空でなんとか座流星群が見られるって言ってたっけ。
どうせ寝てるだろうと思って聞き流してたけど、まさか見ることになるとは予想外デス。
しかも香くんと見ることになるなんて夕方のニュースを流し見してた時には露ほども想像出来なかった。
それにしても流れ星なんて見るのはどれくらいぶりだろう。

「あ、流れ星といえば…」

消えるまでの間に3回願い事を唱えると叶うって言うよね。

と、星々を見上げながらある言い伝えを思い出す。
神様は時々天の蓋を開いて地上の様子を覗き見るらしい。
その時に天からもれる光が流れ星になるんだそうだ。
だからつまり流れ星が消えないうちに願い事を唱えれば、ちょうど天の蓋が開いている時間にあたるので神様に直接願い事を聞いてもらえるというわけだ。
たしか中央アジアのとある地方の言い伝えだっけ。
ふと、子供の頃読んだそんな絵本を思い出した。

「香くんは何か願い事ないの?」
「金、だな…むしろ金以外何もない。」
「清々しいくらい現金だね!」

ロマンチックなムードをぶち壊すような彼の発言にげんなりしつつもいつも通りの様子に何故だか安心してしまう。
やっぱり私たちはこうでなくちゃ調子が出ないよ!

「でも実際消えるまでの間に唱えるってかなりの無理ゲーだよね。」

次々と流れていく星を目で追いながら呟いた。
大層なものはもちろん、ちょっとした願い事だって星の流れるほんの一瞬の間にではとても言い切れるものじゃないし。

「金金金、とかならいくね?」
「あ、うん、まぁそうだね…」

あなたどんだけお金欲しいんですか!
もっと夢のある願い事はないんですか!まだ10代なんだから!
と思ったがつっこんだら負けな気がしたのでぐっと堪えた。
うん、確かにお金はいいよね、お金さえあれば大抵のことはどうにかなるもんね、世の中金とコネだよね。

「そういうなまえこそ何か願い事ないわけ?」

そう考えるとお金って大事だなー、なんて思い始めた私に彼はそう尋ね返してきた。

「私?そうだなぁ…」

自分も同じ事を聞いておいてなんだけど改めて聞かれるとなかなかパッと出てこないものだ。
新しい服が欲しいとか今度出るアニメのBlu-rayBOXが欲しいとか二次元に行きたいとか、あるにはあるけどこんなに綺麗に輝く星の最期を見てたらそんな俗物的な願い事を叶えてもらおうなんて気も起きなくて。

「強いて言うならもっと香くんの事知りたい、かなぁ…。」

気付けばこう呟いていた。
急に夜中に電話してきたと思ったら家の前にいるんだもん。
何考えてるか分からないよ。
でもね、すっごいビックリしたしわけ分かんないけど何か悪い気がしないんだよね。
むしろ一緒に星を見れて良かったなんて思っちゃってる。
夜のお散歩もふたりでなら悪くない、というか楽しいなぁって。
だからこれからもっと香くんと色んなところ行って色んなことして貴方の事が知りたい、かな。

「…後ろ乗りなよ的な。」

素直にそう告げればそれをどう受け止めたのか私には知る由もないが、彼は再び自転車に跨って後ろを叩き、そこへ座る様促した。
その言葉に従い恐る恐る所定の位置へと着く。
誰かと自転車に2人乗りするなんて初めての経験かもしれない。

「明日休みだし朝までチャリ乗り回そうぜ!」
「いいね、朝日でも見に行っちゃう?」
「オッケー、海まで飛ばすか!」

出発進行!
彼の背中に手を回しせば、そのまま自転車はふたりをのせて動き始めた。
定員オーバーしているハズのママチャリは走り出しから安定していて、そんなとこから香くんの体力の高さが窺い知れる。
この細い身体のどこにそんな力があるんだろう。
細身に見えて実は脱いだら凄かったりして、なーんて。

「飛ばして行くからしっかり捕まってろよ的な!」

夜の風がつめたい。
けれど彼の背中はあたたかい。

「あいあいさー!キャプテン!」

それが何だが心地よくて、回した腕にぎゅっと力を込めた。
風を切り海へ向かって加速していく自転車を流れ星が見守っている。

よく分からないけどきっと青春ってこういうことを言うんだろうなー、と思った。


11.真夜中サイクリング fin




■BGM:流星ミラクル(いきものがかり)
彗星→チリを大量に含んだ大きな雪玉
流星→彗星が残していった小さな雪玉が大気との摩擦熱で発光するもの
らしい。

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