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というのが今から15分ほど前の出来事。
現在私は突然の電話の後風のように現れた香くんと共に何故か夜の町を2人ならんで行く当てもなく歩いていた(香くんは押しチャリで私は徒歩だ)。
やっぱり季節問わずこの時間帯は寒い。
厚着してきて正解だったと思う、いやまじで。
「それにしても…真っ暗だね。」
「そうだな。」
「まぁもうすぐ3時だもんね。」
通りの家々の電気はとっくの昔に消えていて点在する街灯と24時間営業のファミレスやコンビニだけがひっそりと闇夜に浮かび上がっていた。
まぁ普通は寝ている時間だもんね。
こんな時間に起きてる私達の方が普通じゃないんだ。
「ていうか香くん、何でこんな時間に家に来たの?」
と、学校の側の公園の前に差し掛かったところでずっと気になっていた事を尋ねた。
明日学校休みとはいえ貴重な睡眠時間を削られたんだ、それくらい聞く権利はあるだろう。
理由なんかあるかわからないけど。
すると彼はこう述べた。
「んー、眠れなくて夜空眺めてたらなんか妙になまえに会いたくなった。」
学校に行けばまた嫌でも顔見なきゃならないんだけど何故か今すぐ見たかった的な。
お前面白いから暇つぶしには丁度いいし。
彼は何でもないといった風に確かにそう述べた。
…何 で す か そ の 殺 し 文 句 !
最後の一文には触れないでおくとして…。
香くんは時々、サラリととんでもない事を言う。
もう少し色々自覚すべきだと思うんだよね。
私は女で香くんは男、これでも異性なんだよ。
いくら私が三次元の恋愛ごとに疎いといってもいつも助けてくれる親しい間柄の、それもなかなかのイケメンである香くんに名指しで”会いたくなった”なんて言われたらやっぱりときめいてしまうわけで。
胸のあたりがきゅんと苦しくて痛くて、甘い。
やめてよ、私こういうの慣れてないんだから。
でも正直満更でもない自分もいるのも事実なんだよね。
この痛みをもっと感じてみたい、この甘さに包まれてみたい。
そんな本能的好奇心、きっと許されるものではない。
そもそもこんなの一時の気の迷いに過ぎないのだから、この心地良さもときめきもすぐに消えて忘れてしまうに決まってる。
そうだ、落ち着け、冷静になれなまえ。
相手は香くんだぞ、無自覚タラシの香くんだぞ。
彼にとってさっきの「会いたくなった」は眠れねーからおめーの笑えるツラ貸せやくらいの意味しかないんだって。
そもそも性別なんて気にしてないどころか多分私が女だって事も忘れてるぞ、せいぜい「ペットのポメラニアン(16歳 メス)」くらいにしか思われてないぞ。
まぁ異性という自覚云々に関してはクラスメイトの男の子とふたりきりで深夜徘徊してる時点で私も彼のこととやかく言えないんだけども。
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