バウヒニアの花言葉 | ナノ


※ヨンス目線です。


「あついー、溶けそうなんだぜー…」

カラン…
手に持っていたデッキブラシを放り投げて、俺はその場に座り込んだ。

ジリジリと太陽が照り付ける真夏の屋外。
何もしなくても外にいるだけで体力を奪われるような炎天下の中、俺となまえと香はたった3人でこの広いプールを掃除していた。
1学期中に水泳の授業を終えて役目を果たした我が校自慢のプールはめちゃくちゃ広い、広いのに調査兵団(※掃除メンバー)はたった3人。
何のためにこんなに広いのかはよく分からないが昔はこの時期になると一般向けに無料開放していたらしい。
とりあえずそのくらい広い、広いのに3人で掃除、たった3人で掃除をさせられている。

「はぁー、疲れたー!あとはよろしく頼んだんだぜ!」
「いや頼んだって…誰のせいでこんな事になってると思ってるんです?」

そんなプール掃除を始めてはや2時間。
みんな疲れはピークに達し、なまえのイライラもだいぶ溜まっていつものアニオタツインテからガミガミツインテへと化していた。

一応彼女がガミガミツインテへと変貌するに至った理由を述べておこうと思う。

それは夏休みに入る直前の数学の授業の事だった。

次の時間に古典(古文)の小テストを控えていた俺は慌てていた。
何故ならこの小テストが不合格になってしまうと夏休みに通常の課題にプラスして特別課題が出されるからだ。
加えて俺は古文があまり得意では無い、漢文ならまぁいけるけど古文は言い回しとか仮名遣いがややこしくて煩わしいったらありゃしない。
いとをかしって何なんだぜその言葉遣いがおかしいんだぜ。
まぁそんな具合であるからにして、今は小テストまでの時間の一分一秒が惜しい、数学なんてやってる場合じゃない。
数学なんてやってる場合じゃないから賢い俺はこっそり古文の勉強をしていた。
お陰で絶望的だった古文テストに一筋の光りが見え始めたんだぜ!
このままならいける、いけるんだぜ!

…と思った矢先の話だった。

「ヨンス、教科書56ページの公式読んでみろ。」
「了解なんだぜホルホ…」

バサッ

勢いよく数学の教科書を持って立ち上がった俺は、事もあろうにうっかり古典の教科書、単語帳、ノートを床にばら撒いてしまった。

「…『たのしい古典』、ねぇ。」

慌てて回収しようとするも内職にうるさい事に定評のある教科担がそれを見逃すわけもなく。

「今何の授業だったかな?」
「未来からタイムスリップして来たら予定より一限早く着いちゃって教科書間違えちゃったんだぜ☆」
「………。」
「…………。」
「…ヨンス。」
「はい?」
「後で職員室に来なさい。」
「先生、香もさっきパズドラやってました、画面にゴルドラがいたんだぜ。」
「ゲリラダンジョンですか…香、君も後で一緒に来なさい。」
「……ういっす。」

といった一幕があり、職員室に呼ばれた俺と香は罰として楽しい夏休みにわざわざ学校に出てきてプール掃除をする事を命じられ、今に至る。
長くなったので3行にまとめると、

授業中に内職
見つかってプール掃除
淋しいので幼馴染を巻き込む

と言ったところか。
改めて思い返すと回想交えて語るほどの出来事じゃなかったんだぜ。

と、ここまで聞くとなまえは関係ないように思えるが、実際この件には関係がない。

じゃあ何故関係のないなまえがここにいるのか。

答えは簡単だ。
それは香がなまえを連れて来たから、どんな手を使ったかは知らないけど。
彼女の様子から察するに恐らく結構強引に駆り出されたんじゃないだろうか、かなり不本意そうだし。
この暑い中、自分に原因の無い件で重労働を課せられてその上元凶に堂々と仕事を放棄されれば、まぁ怒るのも無理は無いだろう。
俺が同じ立場だったら心広いから怒らないけど(※ただし菊を除く)。

「なまえの日頃の行いなんだぜ。」
「なっ…!おいこら調子乗ってんじゃねーですよ!その顔付きフェアリーアホ毛毟ったりまひょかああん!?」
「ヨンスもなまえも…同レベル過ぎて暑苦しい、的な…」

そんなこんなで俺たちが不毛な争いで無駄に体力を消費している中、香は黙々と掃除をしていた。
アーサーさんとこに預けられてからすっかりチャラ男になってしまったけど働き者なところは幼い頃から変わっていないみたいだ。
…じゃなくて。

「とにかく俺はちょっと休憩するったらするんだぜ!」

そう宣言して大の字に転がれば、香は華麗にスルーし、なまえは般若のような顔でこちらを睨み溜息をひとつ、諦めたように掃除を再開した。
なんだかんだ言って真面目だなぁ、ぶつぶつ言いながらも律儀に働く彼女を眺めていると黒い髪の綺麗なまた別の幼馴染の影と重なった。
さすが日本人…よく働くんだぜ。

「うわ、すげっ!ねぇねぇ香くんトンボが交尾してるよ!空中戦ですか!あついねぇ!」
「小学生かよお前は的な。そんなのアーサーでも反応しな…あ、いや、やっぱあのエロ大使なら…会議中にエロ本読むような奴だし、あの人。」
「うわぁ…アーサー会長不潔…眉毛まじありえない的な…」
「眉毛言うのやめてくんない?俺にも刺さるんだけどそれ。」
「香くんの眉毛は凛々しいイケメン眉毛だからいいじゃん、会長のは別次元じゃんアレ。眉毛で大根とかおろせそう。」
「何それまじウケるんですけどw」

なんてくだらない事を考えながら働き者の級友ふたりをぼんやりと眺めているとなんとなく暇だ。
暇なら働けばいいんだろうけど働きたく無いからこうしてだらけているわけで。

掃除をしながらアーサーさんの話で盛り上がるふたりに何かちょっとやきもちを焼いてしまう。
何俺を置いて盛り上がってるんだぜ。

「隙ありなんだぜ!」
「「うおっ?!」」

なんとなく寂しくなって仲睦まじい(?)おふたりさん目掛けてハイドロポンプ(ただの流水)を放てば、ふたりは全く同じ反応を見せた。

「油断大敵なんだぜ、香、なまえ!」

二カッと笑ってホースの先端を向けて見せれば、香はまたしてもスルー、なまえは怒ったような呆れたような顔をして。

「…喧嘩上等だよヨンスくん!」
「うおっ?!」

俺を目掛けて水を掛け返してきた。
思わず俺も奴らと同じ反応をとる。
仁王立ちしてホースを構えたドヤ顔の彼女は何だか少し楽しそうで。
好戦的な一面に思わず見入ってしまった。

コロコロ変わる表情、見ていて飽きないんだよなぁ。
表情豊かな彼女はいつ見ても違う顔を見せてくれる。
香がご執心なのも無理はない。
だってこいつと一緒にいたら楽しいんだぜ!

「よーし…なまえ、今から俺と勝負しろなんだぜ!」
「ふっ…臨むところなんだぜぜよ!」
「…その語尾なんなんだぜ?」
「ヨンスくんの真似なんだぜぜよ。」

「…いいから掃除しろって感じなんだけどお前ら。」

呆れ顔の幼馴染にドヤ顔のクラスメイト、照りつけるような陽射しに大きく広がった入道雲。
真夏の太陽の光を受けてキラキラ光る水しぶきが眩しくて。

夏と太陽。
いつまでも、こうして無邪気にはしゃいでいたい。


番外編02.夏と太陽、いつまでも-fin



★あとがき
やっと出来上がりましたヨンスくん番外編。
いつも以上に自由な文体です。
そして長い、やまなしおちなしいみなし(違わないけど違う
終わり方に納得がいっていないので後日加筆するかもしれません。
次は湾ちゃんかにーにか…アーサーか…。
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