バウヒニアの花言葉 | ナノ


***


「ーーっ!!」

声にならない悲鳴を上げ、私は自分自身のコントロール力を呪った。
何も掴まずに戻ってくるクレーンを迎えるのはこれで何度目だろう。
脱力し、がっくりとクレーンゲームの筐体に身体をもたれさせる。

今日は土曜日、学校は休み、つまり休日、貴重な休日。
その貴重な休日を使ってゲームセンターへと来ていた。
ここのところ部活や生徒会が忙しくて休みの日まで学校にいることが多いからこうしてひとりで出歩くのは久しぶりだ。
普段は休みがあってもゲーセンなんて中々行かないし行ったところでゲームなんかしないんだけど、今回はどうしても欲しいブライズがあって!
クレーンゲームなんてほとんどやったことないけど!
愛があれば何とかなるような気がして!
ゲーセン突撃してみたわけだけど!

けれども現実はそう甘くないわけで!!

早くも軍資金(今月のお小遣い)が尽きそうだ。
結構ガチでピンチなんだけど…!
でもせっかくここまで動かしたんだもん、ここでやめちゃうのは勿体無い!
勿体無いけどお金も無い!

筐体にもたれかかったままどうしたものかと頭を悩ませていると背後から誰かの気配。

「あれ…香の彼女じゃん。こんなところで何してんの?」

と、その声に振り向くと、内巻きの銀髪に綺麗な紫色の目をした美少年、2組のアイスくんが立っていた。

「あ…。」

こんにちは、となんとなくぺこりと会釈する。
彼、アイスくんは香くんやヨンスくんと仲が良く違うクラスながら親交がある。
たまに香くんと3人でお弁当食べたり一緒に帰ったり寄り道したりする仲だ、この前もみんなでカラオケ行ったしね。
だけど香くん抜きで会うのはこれが初めてで、なんかむず痒い。

「アイスくん…奇遇だねこんなとこで。」
「え?何?とうとう彼女って認めたの?」
「違うよ、違うんだけど…認めてないんだけど…」

今の私にはツッコむ気力も否定する気力もないんです。

と、疲れ切った虚ろな目で友人の友人をぼんやりと眺める。
さっきは気付かなかったけれど、その腕には大きな柴犬ぬいぐるみが抱かれていた。
ワー、カワイイナー。
なんっていうか…海外出身の子って柴犬に限らず日本固有の物や文化が好きな子多いよね、アーサー会長も華道好きだしアルくんも忍者リスペクトだしフランシス副会長も本田部長に和食について色々教えてもらってるみたいだし。
アイス君もその内の1人なのかな?
自国の文化が海外の方に好まれているようで日本人として何だか嬉しいし誇らしい。
cawaiiは正義だもんね!

…じゃなくて。
それてしまった軌道を修正すべく話を彼の腕の中でcawaiiを振りまく柴犬に戻す。

「……それ、アイスくんがとったの?」
「?…そうだけど。」
「いくらくらい使ったの?」
「300円。」

さん…びゃくえん…?
彼の返答に私は耳を疑った。

「え?0いっこ間違えてない?3000円じゃなくて?」
「間違ってない。これくらいなら3000円も使わないし。」

私は再び耳を疑った。
「これくらい」ってなに!?
なに?私に喧嘩売ってるのかな!?
私なんか2500円つぎ込んでもこんな小さいぬいぐるみ一つ取れないんだけど!!

何だかもう疑いを通り越して腹が立ってきた。
いや、完全に八つ当たりなのは分かってるんだけどね!

「なんで世の中ってこんなに不公平なの?クレーンゲームの神様はそんなに私が憎いのかな!?ねえどう思うよアイスくん!!」
「え?なに?うるさいし話見えないし、ていうか意味分かんない。」「そこは察してくださいよ!取れないんだよぬいぐるみが!取れないんです!やげぬいが!いくらつかっても薬研藤四郎が!取れないんだよ大将!!」

半ば発狂するかの勢いで私は悲惨な今の己が状況を訴えた。
悲惨なのは状況だけじゃない、訴え方も悲惨だ大丈夫自覚してるとも。
あれもこれもやげぬいが取れないせいだ仕方がない。

「あーもううるさい…。」

私の惨状にアイスくんは心底五月蝿そうに眉をしかめた。
ごめんね!爆死して冷静でいられるほど大人じゃないんだわたし!

彼は長い人差し指を立てそのまま形の整った唇に添えた。
そして…

「静かにしてくれるならとってあげてもいいけど。」


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