バウヒニアの花言葉 | ナノ




「好きなやつ…か。」

観念したのか会長はぽつりぽつりと語り始めた。

「いるにはいるぞ、全く気付かれてないみたいだが。」
「えーっ!マジですか!?」
「へぇー…。」
「あーネ…。」

驚く私に対して2人は(※自分達から振っておいて)やっぱりか、という反応。
会長って真面目だしお堅いし眉毛だし恋愛ごとに疎そうだからちょっと意外だったんだけどな。
それにしても私だけピンときてないのはなんだか悔しい。

「会長の好きな人ってどんな人なんですか?」
「はっ?えっ?え、えっと…」

自称紳士でマナーにうるさくお坊ちゃまな会長の事だ、なんとなく理想が高そうだと思った。
きっと品があってお淑やかで成績優秀で家柄も良くて会長の眉毛を受け入れられる器の大きい女性なんだろう。
趣味は華道や茶道で休日は家でお菓子を焼いたり楽器を弾いたり詩集を読んだり飼い猫と戯れたりしているに違いない。
好きな花は白百合で、得意なお菓子はマカロン、ピアノはコンクールで賞を総ナメ、バイオリンも嗜む、ゲーテは友達、おキャット様は白のマンチカン…と勝手なイメージがどんどん膨らむ。
日本のどこにそんなJKがいるんだ、なんて野暮なことは言ってはいけない、想像(妄想)するだけタダなんだから。

「どんな人、って言われると難しいんだが…強いて言うなら…一生懸命なやつ、かな。」
「いや、全然分からないです。もっと具体的にオナシャス。(そういう抽象的な綺麗事は求めて)ないです。」
「手厳しいなおい!」

「なまえがアーサーに厳しいのはいつものことじゃん。」とは香くん。
特に厳しくしてるつもりはないんだけどな…無意識に日頃の恨みつらみが滲み出てしまっているのかもしれない。

「し、仕方ないだろ、一生懸命なところを好きになっちまったんだから!」
「一生懸命ねぇ…。」
「あーネ…。」
「そ、そういうお前らはいないのかよっ!俺だけ話すのはフェアじゃないだろ、香!」

と、耳まで真っ赤に染め上げた会長は先程のお返しと言わんばかりに香くんに話を振った、雑か。
いやいやいや、香くんこそ恋愛とは無縁でしょ。
入学当初こそモテたみたいだけど最近はその手の話全く聞かなくなったし、そもそも同世代の女の子に興味があるように思えないし、そもそもそもそも香くんだし。
しかしいつだって彼は私の予想の斜め上をいくわけで。

「ん?俺?俺はいるけど。」

ここでまさかの新事実が発覚してしまった。

「はァっ?嘘だぁ!?ちょっと待って何それ私聞いてないですしおすし!何それ!?初耳!」
「俺も聞いてねぇぞ!」
「いや、だって言ってないもん。」

先程の会長とは対照的に香くんは自分の話だというのに妙に落ち着いている。
まぁ要はいつものテンションなんだけど。

「どんな人なのかな!?うちのクラスの子だったり私も知ってる人だったりするのかな!?」
「強いて言うなら…一生懸命なやつ、かな…的な。」
「おい人の傷口を抉るのはよせ、せめてカサブタになるまで待ってくれ頼む。」

うん、絶好調にいつもの香くんのテンションだ。
少しはさっきの会長のウブなリアクションを見習って欲しい。

「んーどんな人かって聞かれると難しいけど…」
「すみませーん、部内ミーティングを行いたいのでみょうじさんと湾さんお借りしてもよろしいですか?」

と、香くんが考え込み始めたところで本田部長がやってきた。
先程会長が入ってきた時に開いたドアはきちんと閉まっていなかったようで、部長は隙間から控え目にこちらを覗いている。
詰めが甘いんだよ詰めが、これだから眉毛は。

「あ、わりぃ…俺達はそろそろお暇するか。」
「うっす。んじゃまた明日的な。」
「おやすミー、お腹出して寝ちゃダメだヨー!」
「おやすみなさーい。」
「じゃア、私達も行こうかなまえ?」
「うん。」

会長と香くんを見送って、ミーティングに参加するために私達も部屋を出た。


…結局、何も聞けずじまいだったな。
香くんの好きな人って一体誰なんだろう。
そりゃ香くんだって同じ高校生だもん、青春真っ盛りだもん、好きな人くらいいてもおかしくない。
むしろ喜ばしいことだ、彼もいっぱしの男子高校生だってことが分かったんだし。

それにもし彼の恋が成就すれば恋人でもなんでもない私なんかより彼女と過ごすようになるだろう。
そうなれば晴れて私は御役御免、失われた自由な高校生活が戻ってくる。
もう朝は電話で起こさなくていいし昼は購買に走らなくていい、課題も自分の分だけやっとけばいいし突然家に押し掛けてくることもなくなるだろう、これで変な面倒事に巻き込まれずに済むようになる。
…いい事づくめじゃない!
是非彼の恋に協力してあげなくちゃ!
香くんの恋が成就した場合のメリットを考えると俄然やる気が出てきた。

「うん、なんか青春だね。」
「えッ?」
「ごめん、ひとりごとです。」

ーーーそれなのに何故か胸の奥がつーんと痛んだ気がした。



21.とってつけたような恋の話 fin



■Q.夢主さんは何でアーサー会長にだけ塩対応なの?
A.恋愛対象じゃないから(信頼の裏返しでもある)。


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