バウヒニアの花言葉 | ナノ



「…おい、大丈夫か?」

男の姿が完全に見えなくなったのを確認して、へたりとその場に座り込んでしまったみょうじに声を掛ける。
そこからたっぷりの間を置いて、やっと彼女は口を開いた。

「…なんか、少女マンガか女性向け同人誌みたいなシチュエーションだなあと思いました。」
「お前なぁ…助けてやったんだからもっと他に言う事あんだろ。」

と言いつつも普段と変わらない彼女の様子に心から安心する。
良かった、特に何もされてないようだ。

「じゃあ…会長の女になった覚えはありません…?」
「そこかよ!まあそこも気になるかもしれねえけど…」

勢いとはいえとんでもないことを口走ってしまった自覚はある。
いきなり俺の女宣言は紳士失格だよな。
ちゃんと距離を縮めて結婚を前提に交際を申し込んでOKを貰って初めて言っていいセリフだ(※あくまで俺の紳士道ルールに則った場合である)。
しかし"距離を縮めて"か…。
今まで交際経験が無い訳では無いが俺の方から女性に好意を抱いた事がないためどうするべきか分からない。

そこでふとみょうじがいつも行動を共にしている"アイツ"の姿が脳裏をよぎった。
宝物とやらを盾に取られ仕方が無く従属しているとは聞いているが、俺が彼女を見ている限り嫌がる素振りは見てとれない。
それどころか寧ろ率先して世話を焼いているようにさえ見える。
前々から気になってはいたんだ。

もしかして、お前は香の事が好きなのか?

「…方便だから気にすんな。」

聞きたかったはずの真実を受け入れる準備はまだ出来ていなくて。
俺は咄嗟にそう答えていた。
知らない方が良いことだってある、だって知ってしまったらもう全部おしまいなのだから。
知らないうちは好きなだけ彼女にアタックすればいい、想いを寄せ続ければいい。
そうすればいつか奇跡が起こるかもしれない。
まだまだ諦めたくないんだ。

「ですよねー、知ってました。」

俺の気持ちなんて露知らず。
彼女はその回答に納得しているようだった。
俺の想いには一切気がついていないらしい。
こちらとしては複雑なんだが。

「じゃあアーサー会長ん家のプライベートビーチってのも方便ですよね?」
「いや、それはマジだぞ。俺ん家の所有地だ。」

と、ちょうど近くにあったカークランド家の所有地である事を示す立て看板を指させば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で看板と俺を交互に眺めた。
やばい、アホ可愛いなこいつ。

「…会長ってセレブだったんですか?その眉毛で?ガラケーなのに?」
「眉毛関係ねえだろ!あと全国のガラケーユーザーに謝れ!というかお前なんか俺の扱い酷くないか!?」
「嘘だ!やだやだー!跡部様が良かったのにー!俺様の美技に酔いたかったのにー!」
「誰だよアトベサマって…」
「氷のエンペラーですよ!跡部王国建国したんですよ!キングですよ!」

アトベサマを連呼しながら駄々をこね始めるみょうじの姿が何だか妙に可愛く思える。
惚れた弱みってこういうことを言うのだろうか。
それにしても皇帝なのか王様なのかどっちかにしてくれないか。

「ほら、湾も待ってることだしさっさと帰るぞ。ちゃんと彼女に礼を言っておけよ、あいつが知らせてくれたんだからな。」

初日から余計な心配かけやがって、なんて言いながら座ったままのみょうじに手を差し出した。
すると彼女は迷うそぶりもなく自然に俺のその手を取って立ち上がった。
そして…

「会長…助けてくれてありがとうございました。ちょっとだけカッコよかったですよ。」

沈みかけていた心がふわっと軽くなるのを感じた。
今の俺には最高のご褒美だ。

「あっ、当たり前だろ。俺は紳士なんだからな。」

やばい、ニヤケが隠しきれない。
顔を見られないように海の方へ顔をむければちょうど地平線に太陽が沈みかけていた。
昼過ぎに合宿所に着いてからもうそんなに経つのか…。
早く帰ってみんなと合流しないとスケジュールに乱れが出てしまう。

「ほら、早く帰って飯にするぞ!せっかく用意させたディナーが冷めちまう。」
「よっしゃー!セレブ飯ですねセレブ飯!明日のBBQも楽しみだなー!」

色気より食い気。
嬉しそうにはしゃぐみょうじを見て、この合宿を企画して本当に良かった。
まだこの楽しいひとときは始まったばかりなのだ。
最後まで楽しんでもらえるよう頑張ろう。
少しでも距離を縮められるよう頑張ろう。
夕暮れの浜辺で俺は人知れず気合を入れ直した。


20.So cheesy. fin


■跡部様も良いですが青春学園中等部の河村隆くんを推しています。
あ、次回から香くんのターンです。
大変お待たせいたしました。


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