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みょうじが向かったと思われるコンビニへ向けて全速力で走ること10分。
さすがに息が苦しくなってきたところでふと浜辺の方を見ると、探している彼女の姿があった。
「みょうじ…っ…!?」
だが様子がおかしい。
見知らぬ男が一定の距離を保ってみょうじの後ろを歩いているのだ。
…もしかして付きまとわれているのか?
今すぐ飛び出したい気持ちを抑え、少し様子を見てみる。
まだ状況が判断出来ていない。
この距離からははっきりとは聞こえないが男が何か喋っている。
「1日だけ、遊ぼう、デート…」聞き取れた単語から察するに、下手なナンパだと思われた。
みょうじはそれを無視して進んで行く。
何にせよみょうじが嫌がっているのは明白だ。
「ねぇ待ってよー!せめて連絡先だけでも教えて?」
と、その時男が無理矢理彼女の腕を掴んだ。
途端に頭にカッと血が上る。
「いやっ…!やめてください!!」
みょうじが叫ぶより先に俺は彼女の元へと駆け出していた。
「おい、テメェ…俺の女に何してくれてんだ?」
みょうじの腕を掴む男の腕を力の限り握り込む。
「アーサー会長…?!」
「いってぇ!何だよてめえ!!」
という声はほぼ同時だった。
爪が食い込むほどの力を込めれば苦悶の表情を浮かべ、やがてみょうじからその薄汚い手を離した。
それを確認して俺も男の腕を開放する。
「か…関係ねー奴が首突っ込んでんなや。野郎に用はねえんだよ。」
「聞こえなかったのかロリコン?そいつは俺の女だって言ってんだろ。おい、帰るぞなまえ。」
「はっ!ガキがマセてんじゃねえよ、邪魔すんな。」
涙目で腕を摩りながらも口だけは減らない野郎だ。
その粘り強さを活かせばもっと社会に貢献出来るだろうに、勿体ない。
「おいおい、そんな生意気な口聞いてていいのか?ここは我が家のプライベートビーチなんだが…不法侵入で今すぐ警察沙汰にしてやってもいいんだぜ?」
と、わざとらしく携帯を取り出してみせた。
この手の輩は警察の存在をチラつかせれば大抵の場合すぐに引く。
昔少々ヤンチャしていた時期に学んだことだ。
「チッ、めんどくせぇな…!」
警察と聞いて一気に態度が変わった。
大げさなほど盛大な舌打ちをひとつ。
案の定、お手本のような捨て台詞を吐いて男は逃げ去っていったのだった。
意外とあっけなかったな…。
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