バウヒニアの花言葉 | ナノ


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「なるほど、っ…ふふ…そういうわけ、やったんやな…ふはっ。」

あれからようやく立ち直った私がここに来た理由を話すと、2人は笑いをこらえながら(いや、たまにこらえ切れずに思いっきり笑ってたか)聞き、納得してくれたようだった。

この関西弁で喋る人がこのビニールハウスでひたすらトマトを愛でるトマト部の部長、アントーニョ=ヘルナンデス=カリエドさん。
先程の悲鳴の主で今回私がてっきり殺されたと思い込んでいた人だ。
で、フェリ先輩より高い位置でくるんと巻いたアホ毛が印象的なのがロヴィーノ=ヴァルガスさん、言うまでもなく私の中の犯人。
ロヴィーノさんは苗字の通りフェリ先輩の双子の兄らしい、どうりて似ているわけだ。

さて、人物紹介が終わったところでこの事件の真相に迫りたいと思う。

結果から話すと、あの赤いシミはアントーニョさんがいつも持ち歩いているトマトジュースがこぼれた事によりできたものだった。
赤いし滑り気あるもんね、トマトジュース。
暗いところで見たから血にも見えるよね。
しかもトマト特有の匂いって鉄みたいだもんね。
で、それを血痕と勘違いして辿って行った先(つまりこのビニールハウス)では口の悪いロヴィーノさんが怒りに任せてアントーニョさんをぽこぽこ殴っていて、私はそれを凄惨なリンチと勘違いしてしまったらしい。
(アントーニョさん曰く「こんなん日常茶飯事やさかい親分慣れてもうたわー。」とのこと。)
喧嘩の理由は2人で育てた大事なトマトをアントーニョさんがロヴィーノさんの断りもなく勝手にフランシス副会長にお裾分けしていたのが気に入らなかったからだそうだ。
もう何故懐にトマトジュースを入れて持ち歩いているのかはつっこまないことにする。

「それにしてもロヴィったらそない怒らんでもええやん。」
「うるせー!相手があのムカつく髭野郎っていうのが気に入らねーんだよ!」

そういえば最初に赤いシミを見たのは家庭科室の前だった。
アントーニョさんの独断でお裾分けされた副会長が所属する美食部の活動拠点は家庭科室だったな、そういうことだったのか。

「もうそないケチんぼさんになったらあかんて。お礼にお手製のマカロン貰ってきたからなまえちゃんと3人で食お!」

と、自分の名前が呼ばれ我にかえる。

「私もご一緒していいんですか?」
「当たり前やん。親分の事心配してくれたお礼やで!」
「それならお言葉に甘えて。」
「…そういうことなら今回だけは許してやるよ。」

マカロン、と聞いて気持ちが揺らいだのだろうか。
現金なロヴィーノさんは許す事にしたらしい。
確かにフランシス副会長の料理は美味しいからなぁ、気持ちは分からなくもない。

「ロヴィはフランシスの料理だけは好きやからなぁ。」
「うるせー!もったいねーから食ってやるだけだからな!」
「はいはい、親分お茶淹れてくるわ。」
「あ、私やりますよアントーニョさん!」

さすがにいきなりお邪魔しといてお客様面するのも申し訳なくてお茶汲みを申し出た。
生徒会や部活でよく淹れるから慣れっこだしね。
でも彼の返事は…

「親分。」
「へ?」
「俺みんなの親分やさかい、なまえちゃんもそうやって呼んで?」

生徒会に自称みんなのお兄さんな副会長や自称みんなのにーにはいるけど親分は初めてだ。
でもまぁ、アントーニョさんの様子を見てると妙にしっくりくる呼び名な気がする。
おおらかだし面倒見良さそうだし。

「おや、ぶん…。」
「そうそう、ええ子やな!」

思い切ってそう呼べばアントーニョさん改め親分はくしゃくしゃと私の頭を撫でてくれた。
照れくさいけどなんだか心があったかいんだからぁ♪といった感じだ。

「じゃ、じゃあ俺のことはロヴィって呼べよ。」
私があったかくなっているとロヴィーノさんが親分の陰からひょっこり顔を覗かせた。
何故かどこか恥ずかしそうだ、今更人見知りなのかな。
それはさておき。

「分かりました。じゃあ私のこともお気軽になまえとお呼びください。」
「おう!じゃあ今日からなまえも親分の子分やで。いつでもトマト部に遊びに来たってな!」
「はい!」

親分の言葉に私は元気よく頷いた。
初対面でこんなに誰かと打ち解けるのは初めての経験だ。
きっと親分の気さくさや親しみやすさだからこそ成せる技なのだろう。
親分だけでなくロヴィさんも根は良い人な気がするし。
正式な部員にはならないにしても、たまにはこの人達に会いにトマト部に顔を出そう。


始まりは勘違いだったけど結果的にはとてもいい出会いになった。



16.赤のご縁-fin



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