バウヒニアの花言葉 | ナノ



赤いシミは外まで続いていた。
辿れば辿るほど、足元の赤は濃く、鈍く、光沢を得ていく。
それはまだ流れてからあまり時間が経っていないことの表れで。
たぶん、この血を流した人物が近い。

更に辿っていくと、裏庭の学級花壇やビニールハウスが立ち並ぶひと気の無い通りに出た。
なんだかすごく久々に来るなぁ。
ここへは初めてイヴァンさんに会った時以来ずっと来ていなかったから。
あの時は散々な目にあったな…香くんがいてくれなきゃあの時の私はどうなっていたのやら。
落としたペンダントを拾われたあの日から、私が困ってる時はいつも隣にいていつも助けてくれるよなー、なんて。

そんな思い出に浸りながらも辿る辿る。
赤いシミ、いや、血痕は複数あるビニールハウスのうちの一つの中へと続いていた。
壁には使い込まれた鍬や鉈が立て掛けられ、足元には鋭利なハサミが落ちている。
なんだか嫌な雰囲気だ。

「さぁ…もう逃げられねーぞ。」

と、なんとなく嫌な予感がしてきたところでそれを助長させる様な不穏な声が例のビニールハウスの中から聞こえてきた。

ゴクリ…この異常な事態に思わず生唾を飲む。
やっぱり関わらない方がいいんじゃないか。
今ならまだ引き返せるんじゃないか。
本能的に危機を察知した私が踵を返そうとしたその時だった。

「ふざけんなよ!死ねコノヤロー!」
「うわっ…やめっ…うわああああああ!!!」

ビニールハウスの中からは先程の男子による罵声と他の男子の悲鳴が聞こえてきたのだ。


薄々予想はついていた。
家庭科室前から規則正しく続く血痕、校舎から離れたひと気のないビニールハウス、足元に転がる凶器。
家庭科室にもこのビニールハウスにも凶器となり得る道具は山ほどある。

まさか…まさか…
いや、やっぱりこれは…殺人事件!?
自分で導き出した答えに身がすくむ。

まさかこんな場面に遭遇してしまうなんて。
興味本位で血痕なんて辿ってみるんじゃなかった。
私は数分前の浅はかな自分を呪った。

怖い、怖いよ。
未だ嘗てない状況に身体の震えが止まらない。
本能が私に告げるのだ、『次はお前の番』だと。
そんなの嫌…誰か助けて。
助けて…いつもみたいに私を助けてよ…香くん。

パニックに陥りながらもその場から離れようとなんとか足を踏み出したところで、私はあろうことか近くのスコップを倒してしまった。
瞬間、辺り一面に響く金属音。

「なんだ?今すげー音がしたぞ。」

声の主がこちらに来るのが分かった。
やばい、やばい、逃げなきゃ。
逃げなきゃいけないのに怖くて足がすくんで歩けない。

ああ、殺される…。
ペタリと力なくその場に座り込んだ私が見たシルエットはどこか見覚えのある特徴的なアホ毛だった。


「…ぇ…フェリ、先輩…?」


いや、でもフェリ先輩にしちゃどこか違和感がある。

「なっ…誰だか知らねーが俺をあのバカ弟と一緒にすんな!ちぎー!」

そこに現れたのはフェリ先輩よりも高い位置にくるんのある目つきの悪い男子生徒だった。

「…フェリ先輩じゃない…?」
「だからちげーって言ってんだろコノヤロー!」
「まぁまぁ…落ち着きやロヴィーノ。君、大丈夫やったん?怪我とかしてへん?」

続いてビニールハウスから出てきたのは日焼け肌の癖毛の男子生徒。
大きな音を立ててしまったせいか私の心配をしてくれているようなのだが、心配するのはこっちの方だ。


何故なら声を掛けてくれた彼は白い体操服を真っ赤に染め、その裾から赤い滴をポタポタと滴らせていたのだ。


間違いない、私の辿って来た血はこの人から流れたものだ。
ということはこの人は被害者なわけで、校舎からずっと血を流しながらここまで逃げて来て追い詰められて、さっきアホ毛の人にトドメを刺されたってことだよね。

それならどうして…?

「…どうして生きてるの…?」



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