バウヒニアの花言葉 | ナノ


***


「ふー、そろそろ一旦休憩してドリンク頼もうぜ。」


もう何曲目か分からないけれど、一昔前に流行った曲を歌い終えた香くんがグラスのメロンソーダを一気に飲み干した。
カラン。
空になったグラスの底に氷が落ちる音が妙に涼しげだ。
一旦休憩を挟むにしても、19時までの学割フリータイムはまだまだ残り時間はたっぷりある。

「そうだネ、私も喉カラカラだヨ。」

彼女のグラスも同じく空になっなていた。

初めて一緒に来るけど、湾ちゃんも香くんもカラオケ慣れしてるのかすごく上手い。
歌唱力はもちろんのこと、曲順が上手く、聴き手を飽きさせない絶妙なバランス、構成になっている。
邦楽や洋楽からどこの国かも分からない曲まで、知らないし聴いたことも無い曲もあるけれど全く退屈を感じないくらい。
まるでバンドのライブに来てるみたいだ。

「ってかお前歌わないの?曲、入れれば?」

と、私が感心する中、ドリンクのメニューを眺めながら香くんが選曲を促してくれた。

「そうだヨ。ヨンス来たらマイク離さなくなるから今のうちに歌っときなヨ。」

続けてそう湾ちゃん。
その気持ちは嬉しい。
嬉しいんだけど…。

「えと…私は…。」

私はパンピー受けする曲なんて歌えません。
アニソン、キャラソン、いいとこボカロくらいしか歌えません。
歌える曲が著しく偏っているんです。

「私はいいよ、ふたりが知らない様な曲ばっかだし!それにふたりの歌聴いとくだけで楽しいし…。」

いくらオープンなアニオタにジョブチェンジしたとはいえ、こういう場だとどうしても遠慮してしまう。
湾ちゃんも二次元大好きとは聞いてるけどあんまりアニメの話はしないからどの程度までOKなのか分からないし…。

私が歌って、笑われたらどうしよう、引かれたらどうしよう、シラけたらどうしよう。
そんな想いが頭をよぎって友達とカラオケに来ると結局いつも聴き手に回ってしまう。

「ばーか、俺たちだってなまえの歌聴きたいし。何でも好きな曲歌えばいいじゃん。」
「そうだヨ、私達の前じゃ余計な気使わないデ!どんな曲きてもノるよ!」
「ほんとに?」

確かにこの二人なら、湾ちゃんと香くんなら私がどんな曲を選ぼうとのってくれそうな気はするけど。

「マジ。っていうか俺ら今更気ぃ使うような間柄でもなくね?」
「だネ!親友だもんネ!」

なんか…すごくベタなセリフにベタなシチュエーションなんだけどベタはベタなりに嬉しい。
なんだかこう、うまく言えないんだけど胸のあたりに熱いものがぐっとくる感じ。

「湾ちゃん…香くん…!」

暖かい言葉に、私は歌う事を決意した。

一緒にちょっぴりハメを外す友達がいるって何かいいな。
案外こういうのも楽しいものだなー、なんて。

思い切っていつも歌うあの曲をリクエストした。

「じゃあ私の十八番、合いの手頼んで良いかな?」

「任せろ!」「任せロ!」

同じタイミングで親指を立てて頷いてくれる2人の友人を見て思わず笑みがこぼれる。

好きなものを認めてもらえるって、自分を認めてもらえるみたいでなんか嬉しい。
自分を偽らなくていいって、自分を晒け出せるって楽だ。

私は本当にいい友達を持ったな、なーんて。

ちょっとだけじーんときて、ちょっとだけ目頭が熱くなった放課後だった。



15.放課後交友録-fin



■ごめんなさい、おかず系クレープ大好きです。


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