バウヒニアの花言葉 | ナノ





「………。」


色恋沙汰とは無縁そうな生徒会長様の突然のカミングアウトに正直、掛ける言葉が見つからない。

「…そ、そうなんですか。」

やっとの事でそれだけ述べると私はすぐさま視線を手元のレポートに戻した。
二次元?知らない子ですね、私はずっとレポートと蜜月ですよ。

「…なんか反応薄くねーか?」
「そッんなことありませんよ。」

と、声が裏返りそうなのを必死で誤魔化す。
ええ、もちろん動揺しています。
相談事にしてもタイミングってものがあるでしょう。
男子高校生ふたりがレポートやりながら恋バナって絵的にどうなんですか。

「だったらいいんだが…」

そんな心の声はともかく、彼は私の返事に一応は納得してくださったようだ。
そのままアーサーさんはシャーペンを無意味にカチカチしながら机に突っ伏した。
彼愛用の高校生が使うにしては妙に渋い、アンティークなそれからは2Bのシャー芯が不必要な長さまで飛び出している。

「こら、芯が折れますよ。」
「うー…俺の心も折れそうなんだよ助けてくれ。」
「勝手に折れてください。」
「嫌だよばか!自分でも初めての事過ぎて何がなんなのかよく分からないんだよ。頼むよ、頼れるのはお前だけなんだ菊。」

カチカチ、カチカチ。
話しながらも止まらない手遊び。
出るとこまで出た芯は限界を迎えたのかやがて折れて床に落ちた。
言わんこっちゃないです。

「ほら折れた、あとでちゃんと片付けてくださいね。…で、どのような方なんですか?」

でも『頼れるのはお前だけ』、そう言われるのは悪い気はしません。

「ん、ああ…聞いてくれるのか、サンキュー。…なんか最近仲良くなったばっかりの後輩なんだけど…。」

私がそう尋ねれば、アーサーさんは少し照れながらも喋り始めた。


生徒会での後輩にあたるんだが…。
ちょっと変わってる奴なんだけどすげぇ一生懸命で頑張り屋で、優しい子なんだ。
見てるとこっちまで前向きな気持ちになれるっつーか…とにかくものすごくいい子なんだ。
で、そいつ最初は俺の事嫌いだったらしいんだが最近は好きだって言われてさ…。
あくまで"先輩として"だってのは分かってるんだけど、今まで誰かに面と向かって好きとか言われた事無かったから…すげぇドキドキしたんだよ。
そっからなんか気になるようになってきて、気付くとそいつの事ばっか考えちまってるんだ。


「つくづく俺って単純だよな。」


そこまで一気に話すとアーサーさんは喋り疲れたのか冷めきった緑茶を飲み干した。
依然、彼の右手にはシャーペンが握られたままだ。

ああ、それは間違いなく恋ですね、私は未経験ですけれど。
鯛でも鮪でも鯖でもなくれっきとした恋でしょう、私は未経験ですけれど。

というか生徒会の後輩というとアーサーさんにそっちの気が無い限り一人しか思い当たらない。
それなりの期間親友やってますけどアーサーさんがホモォである話は聞いた事が無いのでそういう事ですよね。

「あの…つかぬ事をお伺いしますがアーサーさんの気になる方って…。」

恐る恐る尋ねれば返ってくるのは予想通りの固有名詞。


「…みょうじ。」


「……また…よりにもよって難攻不落そうな方を選ばれましたね…。」

つい先日、三次元の男より二次元のイケメンがいいと宣言し、某うたの王子様な乙女ゲーを真剣にプレイしていた我が部期待のルーキーの顔が浮かぶ。
確かに彼女はああ見えて真面目で頑張り屋ですけど、部長の私から見てもとても良い後輩ですけど、付き合いたいと思った事はなかったですね。



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