フユメ
フユメは元々は工学の学生。戦争が始まると飛行機に乗せられる。それまでの訓練の間で一番ひょろ長くて綺麗なフユメはまあ慰み者にされた。彼はパイロットととしては優秀に、しかし冷徹になっていく。考えなしに突っ込む味方の機体を止めることなどなかった。終戦後彼は再び学問の道に戻ってくる。
しかし、工学の世界の進歩はあまりに早い。追いつけないことを悟ったフユメは地質学を志す。ひたすらに勉強し、現在は博物館付きの学者だ。しかし彼には唯一の欠点がある。学会に出席出来ないのだ。飛行機に乗る前の記憶により大人数に囲まれるとフラッシュバックのせいで手が、声が震え出す。
彼自身はすっかり女が抱けない身体になっていた。元々淡白な質だったためにそれほど苦労はしなかった。たしかに苦労はしなかったが彼は心底自身を軽蔑していた。あの時少しでも楽しんでいた自分がいたたのは紛れもない事実なのだから。そしてそれは年々強くなる。同僚の結婚式で、後輩の産休の報告で、意識せざるを得ない。
「私に幸福な家庭は望めない。」