「○○さん?」


下駄箱からちょうど靴を出したタイミングにかけられた声に振り向くと、そこにいたのは高橋さんだった。お互い珍しく一人で、今帰り?と話しながら一緒に学校を出るのもごく普通の流れ。


「そういえば、クラスの女子でお金出しあってお菓子あげよう、て話してるんだけどね」

「そうなんだ」


初耳。とりあえず財布を取り出してお金を出す。ごめんね、てクラスで出してるわけだし、これくらいはね。会話の話題がバレンタインになるのも、多分自然の流れ。高橋さんはあまり自分のことは話さなくて、友達が誰に渡すとか、頑張って欲しいなあ、とか。いい子だなぁて思う。思う、けど。


「高橋さんは、誰かにあげないの」

「え…、」

「え〜?私はあげないかなぁ」


前にあんなことがあったけど、きっと高橋さんが悠太を好き、っていうのは本物なんだろう。最近、特にこう、こういうのに敏感になってきたのはなんでだろう。私も少しはバレンタインの気に当てられたかもしれない。


「○○さんは…あげる人いるの?」

「……さあ、どうだろうね」


そうだよね、と小さく呟いたところで分かれ道に着く。こっちだから、またねと笑顔で手を振って歩く彼女に、声をかける。


「…後悔は、したくないよね」


私は少し意地悪だった。それでも笑顔を返してくれた高橋さんは本当にいい子だった。でも、その気持ちは今だけのもので、きっと大切な思い出になると思うから。彼女には後悔はして欲しくなかったから。純粋に応援したい、って思った。




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