学校も冬休みを向かえ、街は若い人達や家族連れで溢れかえる。今日は特にそう、ってクリスマスイブだから仕方がないんだけど。にぎやかな声も、人の流れも私の目、耳には右から左へと抜けていく。
目の前のショーケースには赤い苺が乗ったクリスマスケーキが並んでいる。毎年やっているこのバイト。クリスマス限定だし、これが意外に儲かる。要にはぶれねぇな、って言われたけど。お決まりのサンタの格好をして、寒いから下にはヒートテックもばっちり着てる。ごくごくたまに、クリスマスにナンパなんて寂しい人もくるけど、ケーキを持って、お母さんやお父さんと手を繋いで帰る家族の姿を見ては、少しだけ心も暖かくなる。


「あれー、棗ちゃん!」

「あきらさん、こんばんは」

「こんばんはー!何、バイトー?」


少し遠くから声をかけてくれたのは、あきらさんだった。小走りで近付いてくる姿はまるで小動物。
棗ちゃんも寂しいねー、ってあきらさんもなかなかぶれない人だなぁ。珍しくスーツ姿のあきらさんはいつもよりは童顔がまだ緩和されてるように見えるけど、ショーケースに張り付く姿はほんと子どもにしか見えない。って言ったら多分怒られるけど。


「ねーこれ苺だけちょーだい」

「…駄目に決まってるじゃないですか」

「あ、こら!あきら!」

「こーちゃん!」


ああ、そうだ。一人は珍しいなって思ってたけど東先生がいなかったんだ。焦ったようにあきらさんに怒っていたけど、隣にいた私を見て挨拶を交わす。○○さんごめんね、って優しさとは裏腹にあきらさんに説教する東先生との二人のやり取りはまるで兄弟のようで私が思うのもなんだけど、なんだか微笑ましい感じ。


「あ、○○さんこれ、良かったらあげるよ。仕事中だと飲めないけど…」

「え、いいんですか」

「うん。バイト頑張ってね」


相変わらずケーキをねだるあきらさんを連れて、東先生たちは人混みの中に消えていった。
代わりに残されたあったかい缶コーヒーを握りつつ、あともうちょっと頑張ろうって思った。




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