色々あった職場体験も終わりに近づく。今は少しだけ落ち着いて、職員室で暫しの休憩。外からは子ども達の声に混じって千鶴のはしゃぐ声や、要の怒鳴り声が聞こえる。なんだかんだ言って意外に楽しんでるんじゃないかな。
「棗ちゃんも、疲れたでしょう」
「いえ、楽しかったです」
そう良かった、そう言って私の前に腰掛けるかおり先生。今日一日経験したのはかおり先生の凄さ。子ども達が喧嘩をしてもすぐに場をおさめてしまう先生は、さすがだと思った。先生って、大変。
「…良かったわ」
「え?」
「棗ちゃんが元気そうで」
目を細め、どこか懐かしいように遠くを見るかおり先生。ああ、私はそんなに心配かけていたのか。昔から一人でいることの方が多くて、それを特に気にも止めなかった。寂しい、っていう気持ちを押し殺して。可愛くない園児だな、とつくづく思う。それでも、かおり先生はずっと気にかけてくれたんだ。こんな私を。そして、私もあの子を昔の自分と重ねてたのかもしれない。
「今でも、みんないますから」
笑い声が響く外。向こうにはみんながいる。大丈夫、私も今ではちゃんと寂しい、って言える。でもちゃんと寂しいって思わせないみんながいるから、大丈夫。
そろそろ帰りの仕度、しなくちゃね。そう返したかおり先生は昔と変わらない優しい笑顔だった。
「またいつでも遊びにいらっしゃい」
最後まで騒がしい一日。要もずっと振り回されていたみたいだし。多分、一番の苦労人。まさか春がばらしちゃうなんて思いもしなかった。どんどん小さくなる幼稚園、私たちの通った場所。明日もたくさんの笑い声で溢れますように。
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