「"職場体験"?」


そういえば、そんなの貰ったような。春が見せてくれたそれは、さきほど配られた職場体験先のリスト表。けど、もうどこにやったかな、って思うほど関心がないものだった。多分、みんなも。毎年二年生が行かなければならないから、嫌でも決めなきゃいけないんだけど。


「棗ちゃんも一緒に行きますよねっ」


"陽だまり幼稚園"
春があげた候補先は、私たちが通った幼稚園。うん、と返事すると嬉しそうに笑った。祐希が要をからかってたり、わいわいしてるのを横目に見ながら昔を思い出す。

いつも帰りは一番最後。たまに要や悠太たちと帰ったりしてたけど、私はずっとお父さんが迎えにきてくれるのを待っていた。一人、また一人とお母さんと帰っていく他の子たちと見ては、羨ましく、少し寂しくも思ってたかもしれない。そんな私のそばに、ずっといてくれてたのが、かおり先生だった。絵も歌も上手くて、優しくて。そんなかおり先生を独り占めできる夕方に、私は小さい優越感に浸ってたんだろう。


「棗?」

「ん」


ぼーっとしてる私を見るみんなに、なんでもないよ、と返す。少し、昔を思い出していただけ。


「楽しみですねっ」

「ね、要の恋がどんな展開を見せてくれるのか」

「だから今は違うつってんだろ!」


要の恋路はどうであれ。あの頃よりは大きくなった私たちにあの場所はどう映るだろう。きっと色々と小さく見えることも多いんだろうな、と思いながら、私もちょっとだけ楽しみだった。




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