「あれ?棗?」


呼ばれて振り返ると日紗子だった。お互いに学校帰りということもあるけれど、ブレザーが制服の私たちの高校と違ってセーラー服はなんだか新鮮だ。そういえば昨日から要と日紗子の親同士で旅行とか言ってたっけ。今日なんだかぼーっとしていることが多かったことに一応みんなで気にしてたのだけど、昨日の今日でなんか関係があるのだろうか。…なんてこと、いくら日紗子とは言え聞けるわけでもない。


「そういえばさ、棗にも言ってないと思うんだけど、うちのおねえちゃん、結婚するんだよね」

「…そうなんだ」

「要もさ昨日初めて知ったみたいで、……今日、要どうだった?」

「………いつも通りだったよ」


そっかー。と気のない返事をする日紗子はそのことには大して気にしてないみたいだ。要が今日ああだったのはやっぱり昨日が原因なのか、と一つの確信が生まれる。きっと勝手に気まずいとか思ってるんだろうな、要は。そういう面倒くさいことは昔から変わらないんだろう。


「…棗は前髪いつも長いよね」

「あー…そうかな」


自分の前髪を触りながら間から日紗子を見る。笑ってはいるけど、どことなく寂しい横顔だ。また切りすぎたのだろう、眉上に綺麗に揃えられたその前髪じゃ、表情が良く見える。


「日紗子は、また切りすぎたね」

「もー!気にしてるのに!」


その時にはいつもの日紗子だった。思ってることが表情に、言葉に表せるところが日紗子の良いところだと、私は思う。私は上手く表せられないからそれを羨ましくも思っていたけれど、本人はきっとそれに気付いてはいないのだろう。そんなことを思いながら別れた道を一人で帰った。






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