某月日曜日の午後。
忘れられたように置いてあった携帯を見ると、ぎょっとするような履歴が残されていた。まあ、ほとんどが千鶴で、時々祐希。日曜日だというのにみんなして暇なんだなぁ。とりあえず千鶴に折り返そうと通話ボタンを押す。出ない。自分からこんなにかけといて…。おおかた遊びに夢中で気付いてないとかだろう。布団干してて気付かなかった私が言うのもなんなんだけど。少しだけ考えて、出てくれそうな悠太を選んでもう一度かけてみる。


「あ、悠太?………ごめん、全然聞こえない」


遠くで聞こえる千鶴のはしゃぎ具合を聞き、どうやらカラオケにいるようで。しかも冬樹のデートの尾行って本当暇だな。そりゃあ電話なんて気付く訳がない。
途中で行くのも、と思ったけれど、おいでと言ってくれた言葉に甘えて教えてもらったカラオケ店に向かう。


「あ!なっちゃんーっやっと来た!」

「…なにしてるの」

「いやね、ゆうたんがえっちなこと考えるから」

「ちょっと、千鶴、」

「棗はさ、一時間で足りると思う?」

「なにが?」


揃いも揃って歌いもしないでなにしているのか。春もなんだか様子がおかしい…ちょ、飲み物、かき混ぜ過ぎ、飛んでる。


「ちょっと、春、」

「ていうかさっきから、となりの部屋全然歌聞こえてこないんですけどー!!」


と同時に立ち上がった春は勢いよくマイクをつかんで、思いっきり息吸って。一瞬のうちにやばい、と感じた私は両耳を反射的に塞ぐ。
爆発音かと思った。目の前で倒れている双子を見て、咄嗟に塞いだのは正解だった。というか私今来たばかりなのに、何だか分からないままとんだとばっちりだよ、もう。


「おい、棗どこ行くんだよっ」

「…トイレ。要も行く?」


行かねーよ!という声を背中に受けてまだ悲惨な跡を残す部屋を出る。…疲れた。今日はまだ何もしてないのに、カラオケに来て歌ってさえもいないのに。……疲れた。


「…あ、松岡のお兄さんの…?」


冬樹の彼女の子…、そっか、デートの尾行だったっけ。挨拶もそこそこにして気付いたのは洗ったように濡れてる顔と、赤くなってる目。まるで、泣いたあと。口を開く前に、もう行かなきゃと出ていった彼女の泣いたわけは分からず仕舞いだったけれど、その分、春がしっかりと冬樹を叱っていた、のは場所を考えてやって欲しいよ、ここ、カラオケ店。まるで見せ物みたいになってたけど、冬樹絡みの春は、ああ、お兄さんなんだなぁと思う。
そんなこともあってかカラオケどころじゃなくなってお開き。意外にももう日が暮れる時間だ。


「……っ、つめた、……なに」

「いや、棗の耳たぶ。あんまり柔らかくない」

「だと、なにかあるの」

「柔らかいとスケベなんだって」

「…へえ」

「あーっ!なっちゃんいま、ちょっとバカに思ったでしょ!やっぱさ、男の方がえっちなんだって!」


バカだなぁ、なんて普通に思う。でもそんなこと知ってる。だって、ずっと四人の男の子の中にいたんだから。





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