バレンタインデーから1日経った今日は、朝からずっと春と千鶴の調子が可笑しいまま過ぎていく。春はどことなくぼーっとしていて、上の空。授業中、先生に当てられたことも気が付かないことなんて今までなかったのに。


「はい、棗もあげるー」

「ありがとう」


口に広がる優しいミルク味。帰りのホームルームが終わったクラスから続々と生徒が出てくる。静かだった廊下も、だんだん賑やかになってきて、あちこちからばいばーい、とかまた明日ーというような別れの言葉が飛び交う。


「ボク今日ちょっと用事があるので、先に…帰ります」


ふら〜と歩いては転んで、歩いては転んで。
きっとずっと、昨日のあの子のことを考えてたんだろうな、と心配してるのはもちろん私だけではなくて。でも、私たちが何か出来ることがあるとか、ないとかも、もう分かってる。冷たいとかじゃなくて、悠太の言う通り、春は自分のことはきちんと自分で考えられる子だということを、知っている。


「ゆっきーは好きになっちゃだめだかんな!?」

「なりません、」

「オレも先帰る!」


割りといつも通りぎゃーぎゃー騒ぐだけ騒いで、春とは反対にばたばたと忙しく千鶴も帰って行ったのを合図に、じゃあオレらも帰るかってなって、四人での下校。
最初は春どうしたかね〜みたいなことを話してたけど、特に結論は出ないまま要と祐希のいつもの言い合いが、なんとなく心地よく聞こえてくる。


「棗、夕焼けきれいだよ」


自分の足元の少し先を見ながら歩くのが私の癖。悠太がそう声をかけてくれて初めて顔を上げる。


「…うん、きれいだね」


急に眩しいオレンジが目に入り、思わず目を細める。吸うと鼻の奥がすん、とするようななんだか泣きたくなるような、そんな冬の空気が好き。





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