口に広がる甘さは、春がくれたチョコレートのせい。バレンタインデーなんて気にせず何も持って来なかった私。春からもらうことになるとは、普通逆じゃない?と興味がなかったそのイベントにも多少の申し訳なさが残る。悠太と祐希は例年通りたくさん貰ったみたいだし、要もお母さんから貰って、まああげなくても気にしない、と思う。たぶん。
「要、まだ口についてる」
「くそっ、まだ取れねーのかよ!」
鏡とティッシュだけ渡してあげる。コートだと汚れちゃうし。女子だけでなく、男子もどことなくそわそわしてる今日は、なんだかいつも以上に浮かれ調子が目に見えて、なんとなく居づらい雰囲気を作り出す。それはそれで無視すれば問題はないんだけど。
「いいなーっ、みんなチョコ貰っちゃってさー」
「あ、千鶴くんにもチョコありますよ」
「い、いやね、春ちゃんからじゃなくてね」
結局茉咲や高橋さんがそれぞれに渡せたのかは知らない。
いつもなら勇気が出せなくて見ているだけの子も、バレンタインということが背中を押して、勇気を少しでも出せることが出来る後押しになるのなら、そういうイベントも悪くないんじゃない。という私は一体何目線なんだろう。
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