みらくるあいろにー。

 

やっぱり次の日は最悪だった。
至る所で色々な部署の女性社員から
あの後、緑間部長と何処へ行ったのか、
アンタみたいな地味な女は
相手にされる筈が無いんだから
恥かく前に身の程を弁えろ、
自惚れるなとか等々。
詰問されるわ
謂れのない権勢をされるわで
僕の精神はもう限界。
ほとほと女社会に嫌悪する。

よし、辞めよう。
辞表を出して
退社しよう。

あの男のせいで印象が薄くなってしまったが
そういえば僕、セクハラもされたんだし。

そうと決まったら
さつきに言いに行かなきゃ。

思考が纏まった瞬間、丁度良く昼休みとなり
お弁当を持って急いで席を立ち
人事課へと向かう。
(情報課でも餌食になりたくない)




「ー…赤ちん!」

「敦…っ」



渡り廊下に差し掛かった所で声を掛けられ
振り向くと、僕が今現在困っている要因を
作りだしたとも言える男、
紫原敦が申し訳なさそうな顔で立っている。



「元はと言えば敦とさつきのせいで…っ」


ぷつんと、何かが頭の中で切れた。
敦の腰元を握り締め
(本当は胸元を握り締めてやりたいが、
如何せん身長差が有りすぎて無理だ)
取り敢えず怒りに任せ力の限り揺らす。


「赤ちーんっゴメンってばー」


男女の力の差のせいで
効果ないのは分かっていたが
敦はすっぽりと僕の身体を抱き締めてしまった。

寂しそうに敦が
若干涙目になったのに満足して
揺らす手を離し、逆にその手を敦の背に回した。


「赤ちん、ひどいー。」

「酷いのはどっちだ!
何でよりにもよって
あの男に俺を頼んだ!?」

「それはー…「それは偶々あの男が
むっ君の友人だったからなの。」


口を開いた敦の言葉を奪うように
彼女の性格まで反映したかのような可愛らしい声が
重なり、声の方を見遣ると
やはりと言うべきか
従姉妹の桃井さつきが立っていた。



「私もあの男とは仕事上の付き合いがあったし、
あの飲み会で無難に征ちゃんを預けられそうだったのが
あの男だけだったのよ。」

「ーさつき!」


抱き締めていた敦から手を離し
さつきに近付こうとしたら
敦は反転した僕の身体を後ろから
また抱き締めた。
敦の悪い癖だ。
僕が怒った後はスキンシップ過多になるのは。

取り敢えず敦はそのままにさせて
僕はさつきに詰め寄る。
大好きなさつきの冷静ささえ、
今の自分には腹立たしい。


「こうなる事も予想済み。
犬に噛まれたとでも思って
諦めてね。」

「横暴すぎる!」

「横暴で結構。それに征ちゃん
あの場面で
緑間君に助けられてなかったら
セクハラに対抗出来たの?
出来ないでしょ。」

「……それとこれとは…!」


言葉に詰まってしまって
二の句が継げない。
確かにあのままだったら
セクハラはエスカレートして
いただろうし、
周りは見て見ぬ振りだったから
助かったけど。
…兎に角、人選はミスだと思う。
注目されるのが嫌いな僕に王子さまは頂けない。
この事態も予想してたんなら
さり気無く助ける事だって出来た筈なのに…!
それに助けてくれたまでは
有難かったけど、
何故手を繋いで宴席を後にしなければ
ならなかったのか。
甚だ疑問だ。
黙ってしまった僕に勝ち誇ったように
笑みを浮かべるさつきが憎い。
理不尽さに再び口を開こうとした。


「セクハラって、大丈夫だったのんスか?征華っち。」

「涼太っ」


頭上で涼太の声がしなければ。

慌てて頭上を見上げれば
敦の高校時代の友人で
唯一俺が懐いた、涼太こと
黄瀬涼太が苦笑混じりに笑っている。


「お帰り涼太、出張お疲れ様!」

「ありがとッス。」


敦を引き剥がし
勢いよく抱き着けば
頭を優しく撫でてくれる
涼太の大きな手が大好きだ。
強請るように胸元に擦り付けば
更に撫でてくれる。
敦とさつきは呆れ顔だが気にしない。
涼太に懐いている僕に
何か思い出したのか、
さつきが口を開く。



「黄瀬君に懐いてるところ悪いんだけど、征ちゃん。
その右手にぶら下げたお弁当だけどね、
私これから会合でお昼一緒に出来ないの。
ごめんね。」

「えぇ〜っ」

「あ、俺もー。
これから研究所に
向かわなきゃならないからダメー」

「敦まで…?!涼太は…?」

「あー…、俺もこれから報告会ッス。」



つまり皆お昼に仕事があるから、
僕一人で食事しなければならないって事…?
無理無理無理。
だって一人で中庭や食堂なんて言ったら
女性社員の餌食になるなんて目に見えてるし、
デスクでの食事は禁止されてる。
…って事は僕、昼抜き決定か。
つまらない会社での唯一の楽しみが…。

明らかにガックリと
肩を落とした僕に見兼ねたのか
涼太が少し思案顔してから
胸ポケットに手を突っ込み、
小さな鍵を取り出し、
僕の手に握らせた。



「屋上の鍵ッス。本当は立入禁止なんスけど
少し前にくすねる機会があって。」

「涼太…っ」



ああ、やっぱり涼太は良い人だ。
助かった。
僕今日から涼太に足向けて眠れないね。
気を付ける!
涼太の家知らないけど。



「ただ、一緒にくすねた奴が一人だけいるんスけど
…良い奴だし、大丈夫スか?」

「うん!涼太の友達なら大丈夫だと思う。」



喜んでいる僕の頭を撫でながら
申し訳なさそうに涼太は言葉を続けたが
無用の心配だよ。
だって涼太の友人だ。
好意は持つだろうが悪意は持たない…筈!

昼休みが中盤に迫っていた為、
涼太にお礼を言って
僕はその場を後にした。










 








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