欲しかったのは愛、知らなかったのは恋

act.5


 
 



 

たまたま買い物に行った時だった。
白を基調とした
シフォン系のAラインが可愛い
ワンピースが目に入ったのは。
一目で惹かれたワンピース。
でもそれは僕より彼女に
良く似合いそうなデザインだった。
でも、自称ボディーガードは



「征華っちに似合いそうッスね」



と、害の無い笑顔でそう言ったのだ。
何処がだ、とか
彼女のが似合うんだとかの言葉が
一瞬喉に張り付いて出なかった。

その間に彼は会計を済ませ
プレゼントッスと至極嬉しそうに笑う。

そもそも雇い主にプレゼントをする
ボディーガードなんて聞いた事が無い。

いつの間にか彼の手には紙袋が
沢山あって
帰ったらファッションショーして下さいね、と
彼がいつも以上に笑うから
釣られて笑ってしまったのは
黙っておこう。



 
 



 


家に着いてからが大変だった。
あの短時間で
良くこれだけの量を買えたな、と
感心出来る程の量を
彼のコーディネートで合わせて
着たり脱いだり着たり。

彼のお気に入りは
やはり白を基調とした
Aラインが可愛いワンピース
だったらしく

すんごい可愛いッス!
今度これでデートして下さいね。と、
犬が尻尾を激しく降る姿を
思い出させるように言うから
思わず頷いてしまった。

それがいけなかった。



 
 



 


「涼太、此処はなんだ」

「へ?三ツ星のレストランッスよ」



数日後、あのワンピースを着せられて
連れて来られたのは
魚料理が美味しいと有名で
予約が取れないと噂される
三ツ星レストランだった。

頭が痛くなるのを感じながら
なんでこんな高い店…と呟くと



「デートって言ったじゃないッスか。」



と無垢な笑顔が返ってきた。

嗚呼、僕はこれに騙されたんだな、と
何処か遠くで思った。



「だって征華っちの初デートッスよ!
忘れたくても忘れられないよう
にしないと!」



それにそのワンピース、
良く似合ってますよ。
なんてイケメンの極上スマイルで
言われたら黙るしかない。



確かに三ツ星レストランである事もあり
料理は美味しかった。
涼太が気を遣ったのか
個室タイプの客席へ案内されたのも
良かったのかも知れない。
マナーは一応覚えてはいるが
実践の経験なんてないのだから。

食事をし終えた僕達は
少し会談をした後店を出て
涼太の車に乗った。



「これからどうするんだい?」

「ん〜…征華っちの身体の事
考えると、もう帰らなくちゃなんスけど…
一カ所だけ付き合って貰って良いッスか?」

「構わないよ。今日はデートなんだろう?」



先程の涼太の発言を捩ると
涼太は少し照れ臭そうに
微笑んだ後
じゃあ付き合って貰うッスと
アクセルを強く踏んだ。








 
 



 

「わぁ…っ」



涼太が連れて来てくれたのは、
湖。
対岸に見える街の光が水面に反射して
更に空の星が綺麗に映っているから
キラキラと輝いて見える。

まるで星が墜ちてきた見たいだ。



「気に入ってくれたッスか?」



夜になって冷えてきたから
車からストールを持って来ていた
涼太が僕に追いつき微笑みながら
近付いてきた。



「嗚呼、気に入った。
涼太は良い所を知ってるんだな」

「そう言われると照れるッス」



ストールを僕に掛けながら
彼は優しく僕の髪を撫でる。
それが心地好いと感じるくらいには
僕は涼太に心を開いていた。



だから吃驚したんだ。
彼の優しい手が僕の頬を撫で
顎を固定したかと思ったら
触れた
火傷しそうな程、熱い唇。

それは一瞬だけのもので

彼は僕の顎から手を離すと
切なげに笑い
これ以上の寒さは身体に障るッスね
車に戻りましょう。と
普段の軽い口調で
僕を車へと促した。

僕は何故か暑いくらいだったのだけれど
それは言っちゃいけない気がして
黙って車の助手席に乗り込む。


二人沈黙したまま
家へと辿り着いた僕らは
おやすみ、と言うだけが
精一杯で
二人別々の寝所で横になった。









 








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