なくした過去は取り戻せばいい。

 


act4
なくした過去は取り戻せばいい






 



桜の髪に桜色の瞳。
弱虫で泣き虫な
可愛い大切な大切な妹。

5歳の時、両親が離婚して
僕は父親の連れ子、さつきは母親に
引き取られる事になった。

泣きながら僕と離れたくないと
駄々をこねた彼女の手を
母や父の為と理由を付けて
半ば強引に振り払ってしまったけれど…。



あれから6年。
彼女は僕の事を覚えているだろうか。















「アルバムの整理ッスか?」

散らばった写真に埋もれるように
その中心にいた俺の依頼対象は
普段の研ぎ澄ましたような雰囲気が
一切消えた状態で写真を眺めている。

声を掛けたのにも反応しない。
こうなってしまっては
この可愛くて可哀相な依頼対象は
飲まず食わず眠らず、
呼吸だけを行う人形へと変貌してしまう。

このトランス状態になってしまうと、
どう足掻いても暫く帰って来ないので
取り敢えず自分用の珈琲を煎れて
隣へ座る。

トランス状態は時々によって
長さはまちまちで、
俺が見た中で最長は一週間。
最短で30分。

初めてこの状態をみた時はかなり吃驚したが
何度か経験する内に慣れた。
慣れてくると驚きよりも
心配になった。


色々な感情が欠落している
依頼対象は、
人間として生きる事にも欠落している。

治る見込みの少ない
先天性の心臓病を抱えているせいかもしれないと、
クライアントである
こいつの義兄が言っていたが

それよりも、
こいつが居た日本に
大切なものがあったんじゃないか、と思う。

最近気が付いたが、
トランス状態になるには
切っ掛けがある。

写真や音楽。
そして桜。

この三つだ。


こいつの親が離婚した時期は
桜が咲き誇る季節で
住んでいた所は
有名な桜並木のある側で、
そこで双子の妹と別れたらしい。

写真は双子の妹が映っているものばかりだし
音楽はその妹が好きだった…って所まで調べて止めた。


過去ばかり見る彼女に
俺は何も出来ないのだと
実感するのが嫌だったから。



「…依頼対象に深入りするつもりは
毛頭なかったんッスけど、な…。」



なくした過去は取り戻せばいいと、
いつか彼女に言えるだろうか。




自嘲しながら冷めてしまった珈琲に口を付け
トランス状態の依頼対象を
腕に閉じ込める。



取り敢えず俺は、
彼女がきちんと笑えるようになるまで
傍にいたい。



そんな、
願いを籠めて。









 








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