過ぎてしまった日々はあまりに美しすぎて

 


act3
過ぎてしまった日々はあまりに美しすぎて







 




「綺麗な歌だね、さつき。」

「えへへ、あのね。
これさくらのうたなの!」


家の近所には有名な桜並木があって
僕とさつきは春になると決まって
桜が一番綺麗に見える
少し小高い丘にある公園へと
足を運んでいた。

その日も桜が美しく咲き誇っていたから
普段通りにその公園でさつきと遊んでいると
さつきが急に口遊みだした歌が
あまりに優しくて
遊ぶ手を止める。

歌が好きな母が、さつきにだけ
歌を教えていたのは知っていたし、
母は母の遺伝性心疾患を受け継いで
生まれてきた僕を
同情し、拒絶し、疎んでいたのも
気が付いていた、…けれど。

如実に目の当たりにすると
どうしてか
胸が痛い。

でもそれをさつきに
知られる訳にはいかなかったから
必死に笑顔を作った。



「…母さんが教えてくれたの?」

「うん!」



嬉しそうに笑うさつきは
可愛らしい、本当の天使のようで
双子なのだから
少しくらい似ていたかったと、
どうしようもない事を思う。



「僕にも、教えてくれる?」

「うたう!征華ちゃんといっしょ!」

「…ありがとう、さつき。」














さつきは教えるのが上手く、
一生懸命
歌を教えてくれた翌日、
両親の離婚が決まった。

二人はさつきの親権を欲しがり
僕は要らないと告げられた。

仕方がないと思った。
だって僕は
天使にはなれない。



結局僕は
見兼ねたアメリカ在住で
父の連れ子であった歳の離れた義兄、
黒子テツヤに引き取られる形になった。













でも、
でもね。

いつも笑顔で
泣いたと思っても
直ぐに笑って。
クルクルと変わる表情。
何事にも無鉄砲に突っ込んでいくのを見て

心配で説教してばかりだった僕に。



「征華ちゃん、だーいすきっ」



満面の笑顔と無償の愛を
注いでくれたのは
さつきだけだったから。

さつきの前でだけ、
僕は天使でいられたんだ。





 








「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -