さよならのあとに



征君の葬儀は慎ましやかに
館の者だけで行った。

アンドロイドの葬儀なんてって
笑う人間は多い。

でもそれだけ彼はこの屋敷で
大きく必要な人間だったのだ。

執事長の黄瀬君始め、
料理長の紫原君、庭師の青峰君。
皆が皆泣いていた。

僕は泣けなかった。
何故なら彼を殺してしまったのは
他でもない僕だからだ。



廃工場の一角で
パキンっと何かが割れる様な
音が響き、征君は眠るように
自身の姉が眠る隣に横たわった
まま二度と動かなくなった。

緑間君から聞いた話では
それは僕が言った
愛の告白のせいだと言う。

征君曰く
老朽化していた感情回路が
好意も悪意も受け入れられない
状態になっていたらしい。

好きだ、と。
恋愛感情で好きだと
伝えてくれたのに
伝えられたのに。

こんなのってないと思った。

何で、
やっぱり無機物は
どうあっても有機物には
ならないって事?

いや、違う。
征君は無機物だったけど
僕への感情を抱いて
有機物へと変化したんだ。

いつでも優しかった彼。
あれは無機物なんかじゃなかった。


葬儀が終わり、
再び征君をユグドラシルにいる
お姉さんの隣へと
横たわらせた。

こうして見ると仲の良い姉弟
二人が眠っているようにしか
見えない。



コツンと足音がした。
それが誰だか分かっている。



「緑間君…」

「すまない、黒子」



彼はあれから何度も謝ってくれた。
彼のせいじゃないのに。
良いんだ。
彼の死因は僕で。
そうすれば二人だけで
完結する物語になるから。



「緑間君、もう謝らないで。
これは僕と彼の問題だったんだ。」

「しかし…っ」

「緑間君。」

「分かったのだよ…」

「……………」

「今日はこれを渡しに来た。
今日届いた赤司から
お前への手紙だ。
此処に置いて行く。読んでやれ」



コツコツと足早に去っていく
足音が聞こえる。
足音が完全に消えてから
振り向き、手紙を手に取った。

そこには確かに彼の
神経質そうな文字で
“黒子テツヤ様”と書かれた
一通の手紙であった。



“拝啓 黒子テツヤ様
君がコレを読んでいるという事は
僕は既にこの世にいないという事だろう。”



「お決まりな文章じゃないか…」



僕は泣きそうになりながらも
クスリと笑いながら
続きに目を通す。



“僕はいつから君の事が
好きだったのか、明確な事は
分からない。気が付いたら
惹かれていたんだと思う。
でも、僕は試作品04という
欠陥旧式アンドロイドで
感情回路の暴走で姉は死んだ。
だから僕は君の手で
殺されたいと思ったんだ。
我が儘で何処までも君を
傷付ける事は分かってる。
でも僕は君に忘れて欲しくないんだ。
こう思ってる時点で
感情回路が暴走してるのかも
しれないけど…

愛してるよ。ずっと、ずっと。

僕を殺してくれて
ありがとう。

君はこの綺麗な世界で
君にお似合いな家柄の
君にお似合いの可愛らしい女性と
添い遂げて幸せになってくれ

宝箱にしてなんて言っておいて
勝手に壊れてしまってすまない
バックアップは緑間が持っているから
なんなら新製品に入れてくれて
構わない。
それはもう僕じゃないけど
未来へと続く宝箱にはなると
思うから…。



追伸:年に一度は会いに来て。”



「なんなんですか、これ…っ
僕はまんまと征君の罠に
ハマったって事じゃないですか…!」



いつの間にか溢れていた涙で
視界が滲む。
結局は総ては彼の手の上
だったって事でしょう?
怒りたくても罵りたくても
その相手がいない。
そんなのって



「ないですよ…っ!」



しかも年に一度は会いに来てだなんて!
毎日来るに決まってるじゃないですか!



僕もいつか
僕に似合う家柄の
僕に似合いの可愛らしい女性と
添い遂げて幸せになるかも
しれないけれど


それはまだ遠い日だと
思いますよ、征君。









さよならのあとに、

こんにちは、また来ましたよ。







 








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テーマ「人外ファンタジー」
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