ことばがたりない




「だから言ったこっちゃないのだよ」

『…………』



憮然とした緑間が現れたのは
黒子を赤司が突き飛ばした
次の日だった。



「数値が上がっているぞ。
このままだと最悪征華のようになる」

『……うん』



取り付けられていく
この間よりも多いコードの量に
赤司は苦笑する。



『真太郎、』

「なんだ」

『君は優しいね。
だから征華も、
君を好きになったんだろうけど』

「…どういう風の吹き回しだ?」

『素直な感想だよ。』



そう、素直な感想。と
一人ごちて赤司は遠くを見た。
黒子が執務室で心配そうに
落ち着かないでいる姿が見える。
もうそんな黒子を見るのは
難しいのかもしれないな、と
赤司はパソコンと睨めっこを
始めた緑間を見た。


旧式のアンドロイド。
試作品04には致命的な欠陥がある。
人を愛せるように
強い感情回路が
備え付けられている。
しかしその感情回路は欠陥品で
強く人を、特定の人間を
想うとショートしてしまうのだ。
更に感情回路は全ての回路の
中心にあり、
一度ショートすると戻らない。
つまり壊れるのだ。

緑間の相棒であった
赤司と双子の試作品04征華は
緑間を愛し、愛されたまでは良かった。
しかし征華は愛し過ぎたせいで
回路がショートし
正常に起動出来なくなってしまい
最後は人間を
傷付けようとしようと
するまでになった。

だから彼女は自ら命を絶った。
命、というと語弊があるかも
しれないが
自ら感情回路が入っている
人間で言う心臓部に
緑間の目の前で
アイスピックを突き立てたのだ。



『…真太郎、』

「なんだ?」

『僕はどうしたら良い?』

「……それを俺に聞くのか?」

『…悪い、酷な事を聞いた』



それから赤司は口を噤み、
緑間も喋らなかった。
室内にはカタカタと
キーボードを叩く音のみが響く。
15分程してピーッと
調整終了の音が鳴る。



「赤司、」

『なんだい、真太郎』

「お前達に足りないものは
会話だと思うぞ。」

『かい、わ…?』

「そうだ。会話さえ成り立てば
もしかしたらお前は…」



確証のない事は言えない
緑間らしくその後の言葉は
空に消える。
その間も緑間は赤司から
大量のコードを優しく
取り外していく。

きっと彼女にしてやりたかった
事だろうに、と
赤司はぼんやりと思う。

かいわ
カイワ
会話。


今更会話等をしてどうなると
言うのだろう。

彼はいつか
彼に似つかわしい家柄の
彼に似つかわしく可愛らしい女性と
付き合い、結婚してしまうと
言うのに、だ。


彼に好きだと告げて
拒絶されて罵られて
その悲しみでショートするのも
悪くない。



「赤司。」

『?』

「お前が思うより
世界は綺麗なのだよ」



赤司の思考を読み取ったかの
ように緑間は告げた。
最愛のアンドロイドを亡くした
緑間でも世界は美しく見えると
言うのだろうか。








 








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