あのひのやくそく。




『婚約者は早いにしろ、
見合いくらいは良いんじゃないか』




と、征君に言われてしまい
僕は拗ねた勢いで
今お見合い会場にいた。

年頃の男女が親族に連れられ
色取り取りに着飾って
張り付いた笑みを
浮かべている。

低い地位の者は
より高い地位の者に
好まれるように。
地位の高い者は
より自分達の地位に
似合った者をと
目をギラギラさせている。

本当はこんなところに居たくない。
屋敷に戻って
思う存分征君に甘えたい。

征君にとって
それが迷惑だったのかと
考え、やめる。

彼は約束を忘れてしまったのだろうか。

祖母が亡くなった日。
初めて征君を起動した日。

何があっても傍にいると
決して離れないと
他の誰も要らないと

そう告げた筈だった。

彼は機械の割に鈍いから
仕方のない事なのだろうか。
(本人に言えば
絶対不本意そうな顔を
するんだろうけど)


僕には、征君だけ
居れば良い。


これは刷り込みに似た
初恋。

それでも成長するにつれ
分かった本物の恋だ。

手放す気はない。


人混みに酔ったフリをして
広大な庭へ出る。

カップルが成立した男女ばかりで
失敗したと思ったが
自慢の影の薄さで
誰も気が付かない。
寧ろ新しく出来た恋人に夢中で
気付かないのかもしれないけど。



予定通り庭から大通りに出れば
一台の見慣れた車。



「来てくれたんですね、征君」

『君の事だからね。
途中で出て来ると踏んでて
正解だった。』

「よく分かってますね」

『約束したからな。
傍にいると』

「覚えて…?」

『当たり前だろう。
僕はアンドロイドで
記憶はなくならない』

「ーーー…っ」



最後の言葉だけ
気に入らなかったけれど
約束を覚えていてくれた事が
もの凄く嬉しかった。



『テツヤ、早く車に乗らないと
伯父上に見付かるぞ』

「…はい!」



僕は征君が開けてくれた
ドアから車に滑り込むと
征君は安全運転で車を
発進させた。



街頭で綺麗に見える町並みを
窓越しに見ながら
一つ引っ掛かる事に気付いた。

そういえば会場に来る前に
見合いに行くのを
征君に見られたくなくて
征君の電源落としたと
思ったんだけど…
誰か入れてくれたんでしょうか?
それとも僕の勘違い?


浮かんだ疑問は分からぬまま
車は屋敷まで走り続けた。






 








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