まちぼうけのあさ。





「それでどうなのだよ」

『悪戯心が芽生えた
以前に比べたら
15歳という年相応に落ち着いて
きたかな。
そうそう最近はオシャレにも
気を遣いだしてね…』

「そうではなく、お前の事を聞いている。」



延々と聞かされそうな
親バカアンドロイドの話を
早々に切り上げさせ
確認を取るのは
赤司専用の医師…というか
メンテナンス技師である
緑間真太郎。
幼少より黒子の祖母に
気に入られ友人である
緑間真太郎は
以前、黒子の祖母と同型の
アンドロイドを所持していた。
唯一違うのは性別のみ。
彼女の名は赤司征華と言った。

彼女は等にいない。
壊れてしまったのだ。
零と壱の狭間で。



『僕は問題ないんじゃないのかい?
その為のメンテナンスだろう?
真太郎。』

「躯は健康そのものなのだよ。
俺が言いたいのは心の方だ。」

『ココロ…?そんなものは
旧式の僕には付属してないよ』



コテン、と小首を傾げながら
赤司は何を言われているのか
分からないと言った風情だ。

しかし長年の付き合いの
真太郎にそれは通用しない。



「黒子も結婚適齢期だ。
そろそろ婚約者でも
宛がわれるだろうな。
でも赤司。
お前はそれに耐えられるのか、
と俺は訊いている。」

『それはテツヤ次第さ。』

「…全くお前と言う奴は…」



猫のように目を細め笑う赤司に
緑間は諦めの溜息を吐くと
赤司の頭を撫でる。



「頼むから俺達のように
なってくれるなよ」

『それこそ余計なお節介さ。』



彼女は幸せだった、と。
赤司は目を伏せて
緑間に聞こえるか
聞こえないかの声で呟いた。

大切な主の為に
好きな人の為に
死ねるなんて
なんて甘美な事か。



緑間は何となく
赤司の思考を読んだ。
だから何も言えない。
仕方なく赤司に繋いでいた
多数のコードを外し
着ていた白衣を脱ぐ。



「診察は以上だ。
何かあったら直ぐに頼るのだよ」



旧式を相手に商売が出来るのは
俺くらいなのだから、と言い
緑間は部屋から出て行った。

赤司はそんな緑間が屋敷の前に
停めていた車に乗り込み
その姿が見えなくなるまで
見送っていた。


テツヤに婚約者か…。


僕は本当に喜べるだろうか。
考えるだけで軋むからっぽの胸
思考回路が鈍く落ちていくのが
分かる。

これは明らかに
彼女がトレースしてくれた
喜びではないとだけ
ハッキリしていた。
寧ろこれはー…


暗い思考に入りそうになった
瞬間、ドアがコンコンと叩かれ
遠慮がちに開かれた。



「征君、診察終わりましたか?」

『ああ、異常なしだそうだよ』

「良かったです。」



そう言いながら
分かりづらい笑顔で部屋の中に
入って来たテツヤは
甘えるように赤司に抱き着いた。



『どうしたの、テツヤ』



彼がこうやって甘えてくるのは
13歳で成人して以降
珍しい事である。



「…伯父から連絡がありまして
その、いい加減独り身はやめろと。
婚約者を見繕っておいたからと
連絡が…」

『…………そうか、』

「でも僕は今が幸せなんです。
気の置けない使用人がいて、
何より征君がいる。
征君がいれば僕は幸せなんですよ」

『しあわ、せ?』

「はい。征君さえいれば
僕は幸せです。」



そう言って微笑んだ黒子は
赤司を力強く腕に閉じ込めた。



「僕だけの征君…」



背中に回された
小さく震えている手は、
幼かった時より大きくなり
僕より大きいかもしれない。
でも心は、きっと。
あの頃から成長していないのかもしれない、と思う。



だから



『テツヤ、』

「なんですか?」

『婚約者は早いにしろ、
見合いくらいは良いんじゃないか』



上手く笑えたかも分からない。
自分で伝えた言葉に
胸の奥底がギシリと鳴った。






 








「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -