かなしみはどこへ。

 



「ユーザー登録?」



“赤司君”が家にやって来て
一週間。
仕事にも慣れてきた赤司君が
午後のお茶を持って来た時に
思い出したように告げたのは
最も最優先事項。



『さつきはユーザー登録してなかったけど、
それだと君は困るだろう?』

「!祖母は貴方を
ユーザー登録してなかったんですか?!」



そして祖母の無防備さ。
ユーザー登録をしないという事は、
誰の命令でも“赤司君”は
拒絶しない(否、出来ない)
先にトレースされていた命令も
他の人間に声を掛けられ
命令されてしまえば
そちらを優先する…というか
始めの命令を忘れてしまうのだから
お使いにでも出したら
“赤司君”は帰って来なくなる。
全てのトレースデータを
上書きされてしまう
可能性だってあるのだ。
(そしてそれはもう“赤司君”ではない)



「ー…祖母は何故、」



無意識に訊ねかけた言葉を
強引に飲み込む。
訊けば彼は話してくれる。
ありのままの真実を、包み隠さず。

でもそれは
彼と祖母との記憶であり
祖母の人間性を高く評価する
ものだろう。
でも僕は全ての人間が
善人だなんて思えないし
人間なんて信じられない。



『どうかした?小さなマスター』

「ー…っ」



嗚呼もう苛々する。
なんで祖母はの事は
ファーストネーム呼びで、
僕は小さなマスターなんでしょうか。
命令すればすんなりと
従ってくれるんでしょうが
それはそれで嫌だ。
大好きだった祖母が今は憎くて
堪らない。



「…ユーザー登録、しましょう。
赤司君」

『うん。』



色々なものが
ないまぜになったのを
無理矢理胸の内に閉まって
告げたのに赤司君は
楽しげに笑うから
沸々と黒い感情が
沸き上がってくるのを
感じながら赤司君の前に立ち
手を差し出す。



「“赤司征十郎。”
貴方の主は私です。
永久に私だけに仕えなさい。
私の傍から離れる事は赦しません。」

『ー承知致しました。』



赤司君は恭しく跪き
頭を垂れて僕の手を取ると、
手の甲に唇を寄せた。
ユーザー登録が完了した証。


何故だかそれが
とてつもなく意味のない行為に
思えて、急激に心が冷めていく
感じがした。





 









「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -