自分自身に嘘はつけないと知りながら

act.9







「彼女を離すッス。」



彼女を担ぎ上げた、
凶悪な顔付きをした人間の
頸動脈に折り畳み式のナイフを
押し当てる。



「りょ、…た?」

「大丈夫ッスよ、征華っち。
直ぐ助けるッス。」



ジリッとナイフに力を篭めていく。
それでも男は動揺する事なく
彼女を離す気配はない。

彼女に血を見せる事は避けたいが
これは避けるのが難しいかも
知れないと、
覚悟を決めた瞬間。

凶悪な顔付きをした男は
高らかに笑い振り向いた。



「相変わらずだなぁ…黄瀬。
俺が誰か分からないくらい
この嬢ちゃんに夢中か?」

「あ…青峰っち?!」



振り向いた凶悪な顔付きをした男は
青峰大輝。
ボディーガードである俺の
先輩に当たる人物で
ボディーガードのノウハウの全てを
教えて貰った恩師でもある。



「何で青峰っちが…、」

「テツの依頼だよ。
お前がこの嬢ちゃんを
助けようとしなければ
俺が嬢ちゃんの
ボディーガードになれって、な」

「そ、んな…。」



吃驚して声が出ない俺を尻目に
青峰っちは彼女の髪を優しく梳く。



「悪かったな嬢ちゃん。
怖い思いさせて」

「…いや、」



頭の回転が速い彼女でも
この展開についていけないのか
何処か強張った顔のまま
青峰っちに相槌を打つ。

何だかそれがとても
嫌で嫌で嫌でしょうがなくて。

気が付けば青峰っちの腕から
彼女を取り上げていた。



「征華っちに気安く触らないで
欲しいッス」

「…っはは!」



本当入れ込んでんだな、と
軽快に笑いながら降参と
青峰は両手を上げた。



「依頼人には入れ込むな、って
教えた筈なんだがなぁ…」

「青峰っち…」

「ま、良いんじゃね?
ただしっかり守り切れよ。」



鋭い眼力で見詰められ
思わずぎゅっ、と
征華っちを抱く力が強くなるが
合わせた視線は逸らさない。



「当たり前ッスよ。
誰が師匠だと思ってんスか」

「確かに。
なら俺に恥をかかせんなよ」



ほんの一瞬、眼力を緩め
優しく微笑い背を向けて
歩き出した青峰っちに
深くお辞儀をした。








 








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テーマ「人外ファンタジー」
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