あの人の背中を思い出しながら

act.7







美しい、桜並木。
帰って来たんだと思った。
自分の居場所は異国ではなく
この日本なのだと。



父方の祖母は良い人だった。
たらい回しにされていた、
僕の事を可哀相だと涙してくれたし
本当は女の子が欲しかったのだと、
可愛らしい部屋を用意してくれて
僕には勿体ないと思う。


でも、何かが足りない。


いつも傍にいた黄色を
目で探してしまっている自分を
自覚する度
深く自己嫌悪に陥る。


そっと、一瞬だけ触れた熱い感触を
思い出しながら唇に触れる。


あれは、どういう意味だったのだろう。
あの時点で彼は知っていたのだろうか。
彼と僕の契約が切れる事を。


ただの餞別だったのか。
それとも他に意味があったのか。


今となっては分からないけれど。


彼の真意が知りたい。


散歩に行って来る、と
父方の祖母に告げると
無理しないでね、と心配されたので
何かあったら連絡します、と
微笑んで父方の祖母の家を出た。



実は此処からさつきの住んでいる
場所まではかなり近い。
それを良しと思わない
母からも父からも、
決して近付くなと言われている。

だから散歩と言っても本当に
家から5分位にある公園か
図書館のみだ。


こうやって独りで歩くと
痛感する。
僕は彼の背中に守られていたのだと
それに安堵し甘えていたのだと。

公園に着いた頃
涙が堰を切ったように
溢れ出した。


思い出の美しい桜並木でさえも
色褪せて見える。

何もかも味気無い。


テツヤは幸せになれる、って
言ってくれたけど
これは本当に幸せなんだろうか。

だって足りないんだ。

哀しいという感情以外全て
彼の元へ置いてきてしまったように。



ふ、と後ろに影が出来た。
先程まで快晴だったのに
雲でも出て来たのだろうか、と
頭を上げると
そこには凶悪な顔をした
体格の良い
一人の男が立っていて
男は乱暴な手つきで僕の手を取ると
投げるように僕の身体を
自分の肩に担ぎ上げる。



「きゃあ…っ」



僕はただ、小さく悲鳴を
上げる事しか出来なかった。






 








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