愛とか恋とか。

にょた→征華
ナチュラルに同棲?



 


世界一般的に今日は二月十五日。
つまりバレンタインの一日後。

昨日は一応彼氏である、
青峰大輝と
アフター6からデートはしたものの、
何もあげていない。

言い訳をさせてもらえば
この所試験が忙しかったとか
洛山に加えて
キセキまで
面倒見る事になって
バレンタインなんて
すっぽり頭から消えてたとか

まあ色々と上げれば山のように
言い訳なんて出来るけど。

本当の所は
ただ単に
気恥ずかしかっただけだったりする。

だって
付き合い始めて
もう5年も過ぎたし
バレンタインも恒例って
言うか何ていうか
マンネリ化してきちゃって
目新しさがないっていうか
気持ちをチョコレートとかの
形に表すって
なんか、さ?

…それに段々大輝の反応も
貰って当たり前な感じになってるし…。
それが嫌だったのも有るけど、
他のキセキたちの目が痛いって
いうのもあって…。

悩んだ末、結局
付き合ってから初めて
バレンタインに何も渡さなかった。

まあ見事に大輝は
バレンタインと言う事を
忘れてくれていたから
修羅場みたいなことには
ならなくて済んだのは
ラッキーだった事に違いない。
(テツヤや涼太、敦に真太郎、
さつきに火神。後洛山のメンバー、
…毎年あげてるメンバーには
当然渡したから
気付かれたら面倒って
懸念があったから
杞憂で良かったな。)


でも ちょっとだけ、
ちょっとだけだけど。
気付いてくれたら嬉しかったかも、
なんて。
期待するだけ無意味で。

うん。本当に無意味だったんだけどね。
付き合い始めて初めてのバレンタインに
渡したチョコを照れながらも
満開の笑顔で
頬張ってくれた大輝は
もういないのかな…。

自分の思考に押し潰されそうに
なりながら
湯煎しているチョコに視線を落とす。

チョコレートの甘い香りが部屋に
充満してるのに
なんでかな、
悲しくなってくる。


「…あ、れ…?」


ポロリと零れた滴が
ドロドロに融けた
甘い甘いチョコレートの中に
落ちては消えていく。


「…っ、いき…」


怖かった。
本当は怖かったの。

好意が当たり前になって
有っても無くても同じになるのが

凄く怖かった。

気付いて欲しくて
他の人には普段通りに
バレンタインをしたけれど。

君が気付いてくれなきゃ

もう僕、
どうしていいのか分からないよ。


気が付けばチョコレートを
湯煎していた手を止めて
嗚咽を噛み殺す為に口を塞いでた。
震えだした体からは力が抜けて
冷たいキッチンのフローリングに
しゃがみ込む。

誰もいないのに
誰かに気付かれないように
必至に零れ落ちる涙を止めようとしても
止まらない。

どうしよう
どうしよう
どうしよう。

このままじゃ明日にも
この感情を引きずってしまう。
人の感情の琴線に聡い彼らだから
きっとこの感情に気付いてしまう。

そしたら責められるのは大輝だ。

これは僕の身勝手な感情だから
大輝に押し付けちゃいけない。
でも押し付けられたら、なんて
思ってしまう
弱い自分がいるのが嫌だ。

こんなにも自分が弱いだなんて、
知らずにいたかったのに。



気が付けば湯煎していたチョコレートは
冷えて固まってしまっていた。


なんだか今の自分みたいで
虚しい。

渇いた笑いが喉で鳴った。

止まらないなら流れるだけ
流せば良い。

半ば投げやりになり
頬を拭う事を止めて
天井を見上げた時。







「征華…?」


あたたかい声が背中越しに
響いた。



「どうした、キッチンなんかに座って
…体調悪いのか?」

近付いて来る足音と
鼓動が重なる。

涙で崩れた自分の顔も
見せたくなくて、
大輝の顔も見れなくて。
俯いて大輝の視線から逃れた。



「、チョコレート…?」



僕の様子を伺おうと
近付いて来た大輝は
僕の後ろにあった
固まってしまった
チョコレートの入った
ボウルに気が付き、
それを手に取る。



「…、今年は貰えねえのかと思った…。」



その声音に確かな喜色が
交じっているのが分かって
思わず振り返ると、
大輝は僅かに頬を染め
はにかんだ笑顔でそこに居た。



「…だい、き…?」

「おう。…ってお前何泣いてんだ?!何があった!」



僕と目が合うと笑顔から
驚愕の表情に変わり、
狼狽え始めた図体のデカイ男に
今まで悩んでいた事が
急激に馬鹿らしくなってしまう。


そうだった。そうだったね。
大輝は大輝で。
無愛想で分かりづらくて不器用な
優しい優しい
僕の大好きな恋人。

好意や思いやりが
当たり前になってたのは
僕の方だったんだ。


いつの間にか
自分を見て欲しいって
構って欲しいって
我が儘に
自分勝手に
甘えて
寄り掛かって。


昨日だってバレンタインだって
気付いていながら
催促しなかったのは
僕が試験や他のキセキ達の世話に
追われてたのを知ってたから。

隠してないから
他の人に渡してたのも
知ってたんだね。

それでも何も
言わなかったのは。

不器用な君の
精一杯の優しさ。








「ねぇ大輝。
チョコレート、ちゃんと作り直すから
…食べてくれるかな?」



ギュッと縋り付きながら訊くと、
大輝は僕を抱き潰さないように
力加減をしながら
それでも力強く抱き締めてくれる。



毎年楽しみにしてたんだからな、と
耳元で囁かれて
擽ったさと嬉しさで
新たに零れ落ちた涙は
大輝の唇に溶けて消えた。









愛とか恋とか。
(僕にはまだまだ難しい。)











 








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