此処にある、ぬくもり。

妖怪パロ。




 

寒さが増す往来で、
原形を留めていない妖怪が一つ。
その前に立つ少年は
顔に不機嫌を隠さないまま
後ろに立つ深緑色の着物と
黒衣の羽織りを纏った青年を睨み付けた。



「人の獲物を横取りするなって
常日頃言ってるだろう。
大輝の馬鹿。」

『赤司は俺のモノだ。
そんなお前を危ない目に
合わせられるわけがないだろ。』

「…………」



憮然とした表情を崩さぬまま
少年は黒衣の青年を無視して
歩き出す。
黒衣を纏った青年は
苦笑しながらも後に続いた。



そんな彼等が出会ったのは
2年前の冬。

当時病がちだった少年が
死の淵に立たされていた時である。

少年は不義の子だった為、
誰にも愛されず
家族の温もりを知らなかった。
現に死の淵に10にも満たない幼子が
立たされているというのに
彼の周りには誰もいない。

少年は幼いながらも
自分の立場を理解し、
後少しで根の国へ誘われるであろう事も
本能で察していた。

だからこそ
少年は
一度も出た事がない外へ
足を踏み出したのである。


そこは一面の雪景色だった。


しんしんと降る雪は
音を消し、空を消し、
大地を消し、己さえ消し去る。

少年は雪を知らない。

閉ざされた、
限られた世界しか知らない少年は
ただ美しいと。
それだけを思った。


段々と己を隠してゆく雪。
このまま白く染まり
世界と一体化すれば
己は赦されるのだろうか。
愛されるのだろうか。


少年は
空から降る雪に
力の無い手を伸ばす。


その手は空を切る筈だった。


しかし
その手が地に着く前に掴んだモノがいた。
体温はない。
それこそ今降り積もる雪のような冷たさ。

少年はそちらに目を向けた。



『生きたいか?』

「…わからない。」



でも、
こんなにも世界が美しいのなら
もう少し早く。
もう少し長く。
見ていたかった。



もう上手く呼吸が出来ないせいか
小さな声で呟かれた詞は
雪のように凍てついた青年の心に
波紋を創った。



『なら、連れて行ってやる。
この世界がまだ美しいと思えるお前を。
俺を愛するというのなら。』

「………、君も…僕を、愛してくれるなら。」


凍てついた手を持つ青年は
少年を抱き上げると
雪の中へ姿を消す。

次の日、
行方知れずとなった少年を
捜す者は
一人も存在しなかったという。





そして現在。

少年と青年は
青空の下にいた。

手を繋いだ
あの日から
変わる事のない
想いを抱いて。





此処に在る、
   ぬくもり。















 








「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -