憧憬は水面に揺れる満月に似て。

某眼鏡探偵パロです。(所謂身体は子供〜的な)
桃←赤←黒。
これの続き。


















ポンっと軽快な音を立てて
作っていたお味噌汁が
一枚の予告状を残して姿を消した。

多忙なさつきの為に、
少しは落ち着けるような朝食をと
思っていた赤司は愕然とし、
お味噌汁を奪った怪盗に並々ならぬ
怨みを抱き予告状を握り潰す。



「おはよう、征君。」



タイミング良く起きてきた
さつきは台所で一枚の紙を握り潰し
立ち尽くしている征十郎を見て
全てを悟ったようで、未だ小さいままの征十郎の頭を撫でた。



「怪盗ミスディレクションは
手際が鮮やかなんだね。」

「………殺す。」

「朝っぱらから不吉な事言っちゃダメ!
気にせず朝ご飯、食べちゃおう。」



そう言い、御膳をテーブルに並べ出した
さつきに倣い征十郎は席に着いた。


















天照が眠り月読が癒しの咏を
謠う夢現の境に、
神が居わす前で待つ。












結局怪盗の思惑通りに
行動してしまう自分に
腹が立てながらも、
予告状通りの深夜零時に
征十郎は家の近くにある
大きな神社にいた。



「怪盗ミスディレクション。いるんだろう?」



征十郎が鳥居へと
吐き捨てるように告げると
鬱蒼と茂る神の力を宿した
木々がざわめき、
怪盗の笑い声が谺した。



「よく気付きましたね。でも…」



ふわり、と背中に凭れ掛かる熱を
征十郎は振り払い
怪盗ミスディレクションを睨みつけたが、
怪盗の服装を見るなり固まった
征十郎を見て
怪盗ミスディレクションは
悪戯が成功したかのように微笑む。



「この格好の時はテツヤです、征十郎君。」



怪盗ミスディレクション…否、
テツヤは怪盗の時の白のタキシードに長いマント姿ではなく、
普段何処にでもいそうな若者の
洋服を身に纏っていた。
更に怪盗ミスディレクションの時に
付けている仮面を今は外している。
滅多な事では素顔で現れないので
仮面の下にある
綺麗な水面の瞳を知っているのは
極僅かな人間のみ。
その美しい水面が征十郎の前で
惜し気もなく曝され、
征十郎は珍しくテツヤの瞳に魅入った。



「そんなに見詰められると
穴が開きそうです…。」

「…探偵に素顔見せていいのか?」

「征君は特別です。友達でしょう?」



至極嬉しそうに笑うテツヤに
征十郎は複雑になる。


なんでこの怪盗は
こんなに嬉しそうなのか。
そもそも怪盗の自覚があるのか。
友人の位置がそんなに気に入ったのか。
あんなキスしてきた癖に
僕の事はもう…。



そこまで考えが至って
征十郎はハッと我にかえった。
思考に囚われている内に
視界が高く、広がっていたのだ。
小さい為に遠目でしか
見れなかったテツヤの顔が
触れそうな程至近距離にある。



「テ、ツ…」

「祝ってくれませんか、本来の姿で。」

「は?」

「今日は、僕の誕生日なんです。」



顔が赤く染まったテツヤに
抱き締められ
お願いします、と低く耳元で囁かれ
ゾクリと征十郎の背筋が震えた。

水面に視線を搦め捕られて
身動きも取れないまま
触れるだけの啄むキスを
何度も繰り返され、
呼吸が落ち着かなくなったところで
解放された征十郎は、
まるで表情を隠すように
テツヤの胸に頭を押し付けたものだから、
テツヤは抱き締める力を強くした。



(いきなり元に戻すから…、
僕にもう興味無くしたのかなって、
不安になっただなんて
口が裂けても言えない)



恥ずかしくて、こそばゆくて。
征十郎が更に強く抱き着くと、
テツヤは落ち着かせるように
いつの間にか身体が小さく戻った征十郎の
髪をゆっくり梳く。
征十郎はその心地良さに瞼を下ろす。



「……征君。」

「…何?」

「えー…と、…あのですね、
期待しても、良いんでしょうか?」

「!」



テツヤの言葉の意味が分かった
征十郎は反射的に顔を上げ、
美しい柘榴石と琥珀の瞳を
零さんばかりに見開いた。



「ねぇ…、」



近付く距離に征十郎は
動きを止めたままテツヤを見詰める。
徐々に接近し、
二人の距離が零になる刹那。
テツヤの腕の中にいた筈の
征十郎はふわりと宙を浮いた。



「夜遊びは程々にしてね。って、言った筈よ…征君?」



いつの間にいたのか、
気配すら感じさせなかった
さつきが征十郎を抱き上げ見詰める。



「…っすまん」



顔は笑っているが
瞳は全く笑っていないさつきに
本能的に恐怖した征十郎は素直に謝ると、
それに安堵したのか
息を一つ吐いたさつきは
いつものように柔らかく微笑むと
視線をテツヤの方へ変えた。



「ところで征君。
最近怪盗ミスディレクションと
仲が良いと思ってたんだけど…
もしかして彼が
怪盗ミスディレクションなの?」



さつきがテツヤを視る目が鋭くなるのが分かり、
征十郎は焦る。
さつきという人物は
個人で探偵をしている火神(あくまで自称であり、裏で何をしているかは征十郎も知らない。ただ、探偵としては右に出る者はいないのは事実だ。)の影響からか
観察眼が桁外れに高い。

逮捕する権利はないさつきだけれど
仕事でブッキングした際、
顔を見られたテツヤが不利になるのは
火を見るより明らかで。
征十郎はどうしたら良いか分からず
テツヤを見ると
テツヤはただ穏やかに微笑むのみ。



「征君、どうなの?」

「…………」

「征君?」

「やだなあ、さつき。
彼は怪盗ミスディレクションなんかじゃないよ
…ただの僕の友人だ。」



そう言い切った征十郎に
さつきとテツヤは目を見開いたが
さつきはつまらなさそうに口を曲げ
テツヤは嬉しそうに微笑んだ。
征十郎はさつきに罪悪感を感じながらもホッとし、
抱き抱えられたままだった身体を地上へ降ろした。
その行動にもさつきは若干眉を顰める。


「まぁ、いいや。
征君がそう言うなら信じる。」

「さつき…」

「今日はもう帰るけど、
くれぐれも遅くならないでね。」



テツヤを睨み付けながら
征十郎の頭を軽く撫でて
さつきは帰っていき、
神社にはテツヤと征十郎だけが残った。
さつきの姿が見えなくなるや否や
テツヤは征十郎を再び腕の中へ
閉じ込め笑みを深くする。



「何、気持ち悪い。」

「いえ、貴方が僕を庇うだなんて
思ってなかったから…、嬉しいんです。」



至極幸福そうに笑うテツヤを見て
馬鹿らしくなり殴る気が失せた
征十郎は静雄に凭れ掛かる。





「あ、そうだ。テツヤ、」

「なんですか?」

「誕生日、おめでとう。」



先程請われたから、
そう自分に言い訳して
言ったは良いものの、
征十郎は気恥ずかしくなり
再びテツヤの胸に顔を埋めながら
征十郎はテツヤを覗き見る。

テツヤはフリーズしたまま
動かない。
見開かれた水面のように
美しいテツヤの瞳が
ゆっくりと喜色に染まるのを
間近で見ながら
征十郎はテツヤの瞳だけは
好きかもしれないと
そう、思った。













を照らす夜。


心に
小さく芽吹いた
一枚の手札[カード]は
隠したままにして

今はただ
美しい月に見惚れていたい。























 








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