満月は柘榴の夢を見る。

某眼鏡探偵パロです。
(所謂身体は子供〜的な)
桃←赤←黒。
桃と赤は双子
黄は西の名探偵。















 


夜の帳が落ち、神々も眠りについた頃…。



「可愛い子猫はねんねの時間ですよ?…征君。」

「僕の身体を元に戻してくれたら眠ってやっても良いよ…怪盗ミスディレクション。」















月も眠る夜。


予告された
一枚の手札[カード]だけが
運命の行方を知る。



















ピピピ…
軽快な電子音が朝を告げた。
眠気が残る目をこじ開けて
リビングに向かえば、
穏やかに微笑むさつきの姿がある。



「おはよう、征君」

「…おはよう、さつき。」



いつもの風景。
いつもの日常。
ただ一つ違うのは、
つい先日まで帝光学園に通って
探偵の真似事をしていた筈の
僕の身丈が、
小学一年生くらいまでに
縮んでしまっているということ。


数日前、孤児だった僕とさつきを
此処まで育ててくれた年齢不詳で
自称名探偵の火神に来た依頼に
付いて行った際に
不意を突かれたせいで、
その日の獲物、
怪盗ミスディレクションに
身体を小さくされてしまった。

どういう原理で小さくされたか
不明で不安だったが、
青峰もさつきもは特に動揺せず
小さくなった俺を受け止めてくれ、
“また小さい頃の可愛い征君を
見れるなんて嬉しい"
なんて笑ってくれたのが
救いだったのは内緒。



「眠そうだな。夜更かしでもしたのか?」



新聞を見ながら人の悪そうな
笑みを浮かべ問うこの人間は
僕が言うのも変だが質が悪い。



「征君、夜遊びも程々にしてね。」

「…善処するよ」



俺がそう言った瞬間、
呼び鈴が響き
お手伝いさんに
次いで現れたのは
高校の同級生達だった。



「元気ッスか赤司っち」

「生きてる〜?」

「…涼太!敦っ」



彼等は僕が身体を小さくされたのを
知っている数少ない人物達である。
敦はお菓子大好きな幼なじみ。
涼太は僕と同じ高校生探偵をしていて
フルネームは黄瀬涼太。
モデルもしている。



「その姿ってことはまた失敗したの〜?」

「まあね。後少しだったんだけど、さ。」



敦は火神に促され席に着きながら
僕の軽く撫でてくる。
嬉しいけど気恥ずかしい。



「そういえば予告状を直に貰ったらしいッスね!
是非見せて欲しいッスよ!」



勝手知ったる他人の家と涼太は
珈琲を人数分煎れて来ると
楽しげに僕の地雷を踏んだ。
そんな涼太に苛立ち
無視を決め込み食事に手を伸ばす。



「確か“今宵柘榴の涙を頂きにあがります”
…だったな。今回の予告状は。」

「?!」



僕だけが貰い受けた予告状を
火神が新聞を畳みながら
澱みなく空んじた光景に
僕は目を見開くしかない。
…やはりこの人間に隠し事は無意味だ。



「へ〜柘榴の涙、柘榴石ッスか…。」

「精々気をつけろよ、征。」



スーツの上着を羽織りつつ
火神は僕の頭を撫でる。
不機嫌に眉を寄せる僕を無視し、
敦と涼太へ視線を移した。



「じゃあ、征の事頼んだぞ。二人共。」

「任せて〜」

「赤司っちのお守りは慣れてるッス〜」



妙に間延びして頷いた敦と
軽く笑った涼太に見送られて
火神は仕事へと向かって行く。
取り敢えず涼太は殴っておこうか。


それにしても結局火神は
何が言いたかったんだろう…。

















闇に街が包まれた頃、
高層ビルの屋上に
純白のタキシードに付いている
長いマントが風に揺れる。



「…追い詰めたよ。
さぁ、解毒剤を渡して貰おうか。
盗んだ柘榴石と一緒に。」

「可愛くない誘い方ですねぇ。
勿体ないですよ、征君。」



あくまでこの状況を楽しんでいる
この怪盗はクスクス、と喉の奥で笑い、
顔を笑みの形へ変えていく。



苛立つが募り
仕込みナイフを取り出し構えると、
怪盗は更に笑みを深くする。



「男に可愛いとか…。
怪盗じゃなくて変態のが
正しかったりして…」



言うのと同時に
ナイフを振り下ろすが、
簡単に躱される。



「そんなに寂しかったんですか?
僕に逢えなくて…。」



余裕な表情を浮かべる彼は心底
嬉しそうで腹が立つ。



「馬鹿なこと言わないでくれる?
君とは二度と会いたくなかった。」



再度切りかかると
ナイフをあっさりと掴まれ、
怪盗に似つかわしくない力で
回収された後
後ろ手を取られ
逆に動きを封じられてしまう。
ただでさえ子供と大人。
体格差もある上に握り込まれてしまった手が力によって軋む。



「はな…せ!!」

「おいたが過ぎる子猫には
お仕置きが必要ですよねぇ。」



そう言って怪盗は
もう一つ隠していた
仕込みナイフを取り出して
遠くへ放り投げ、
片手で僕の両腕を拘束した。
空いた手は僕の腰へと回され、
距離が一気に近くなる。



「離せよ、怪盗さん。」



睨み付けて言えば、
誘ってるんでしょう?、と
訳の判らない返答がかえってきた。
頭が痛い。
怪盗の言ってる事が理解出来ず
頭痛がする。
どうしたものかと思案していると
不意に怪盗の顔が近付く。



『征君…。』



『また小さい頃の可愛い征君を
見れるなんて嬉しい』



耳元で囁かれた声に、
僕は全力で耳を疑った。



「その声……っ!!」



驚愕に揺れる僕の瞳に、
映るのは怪盗のみ。



『夜遊びは程々にっていったでしょ。』

「……っ」

『愛してる…征君』

「黙れ!!」



悲鳴に近い声で叫ぶと、
怪盗は不思議そうな顔をしつつ
漸く黙った。



「…何故です?君が望んでいる声、
言葉でしょう。」



そう訊いてくる怪盗の声色には
理解しがたいという感情が
如実にあらわれている。



「君には…判らないよ。
盗っ人さんには、ね」



未だ拘束されたままで、
暴れながら言えば
怪盗は寂しそうに顔を歪ませた。



「…君は…、どうすれば…」

「?」



悲痛な、胸の奥から
絞りだされたかのような声を出した怪盗は、
僕を力いっぱい…といっても
傷付けないように
真綿で包むような力加減で
抱き締め、唇を重ねてきた。
抵抗は無論、出来ない。
啄むような口付けの合間に、
征君、征君…、と余りにも
切な気に人の名を呼ぶものだから、
どうしたものかと手持ちぶたさになってしまう。


どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
啄むのみの口付けから解放されたときには、
僕の唇は熱を持っていた。
ヒリヒリして、少し痛い。
視線は絡んだままで
真っ直ぐみつめられ、
思わず鼓動が跳ねたなんて認めない。



「…征君。」



まるで迷子になった子供が
漸く見付けた親に縋り付くかのように、
回された腕が
微かに震えているのが分かり
俺は一つ溜息を吐くと
小さく身じろぎ
いつの間にか解放されていた
手で怪盗の背中を擦る。



「…征君?」



困惑したまま顔を上げて
僕の顔を覗き込む怪盗の瞳は
水面のように美しく
それはとても素直に綺麗だと思った。



「ねえ怪盗さん。
まずは友達にならないか?」



おどけたように微笑めば、
彼は鳩が豆鉄砲を喰らったような
表情をしていた。


(ざまあないね。)














月が全てを
照らす夜。

予告された
一枚の手札[カード]が
提示した未来は

僕らの前に
新たな道を作り出した。











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