冷たい雨が怖い。

 







雨の降る音が聴こえる







冷たい雨が怖い。












今日で
十日も続く雨。
梅雨でもないのに雨ばかり。
秋雨前線の影響だとか、
TVでは言っていたけど
いい加減、嫌になってくる。


何時も以上に全てが面倒臭くて。
必要以上に苛立つ。
何をしても僕の気持ちが
スッキリする事はなく。
寧ろこの胸に蟠る暗い影が
濃くなった気がするのは、
何故だろうか…?


窓から街を眺めて見ても
景色は傘に阻まれてしまう。

雨が後から後から降ってきて。


地面を濡らし
人間の存在を曇らせた。


空から零れ堕ちてくる雫は、無情にも。
跡形もなく全てを消し流していくから…。






耳につく、
騒がしい雨音。



判らなくなる。



僕は本当に
存在してるの?










「あれ。溜息なんてついて、どうしたんです?」


…いつの間に部室に入ってきたのか
テツが心配そうに声を掛けて来てくれた。



「今日は部活は休みだよ?」

「ええ。でもたまたま赤司君が見えたので。」

そういって彼は僕を後ろから抱き締めた。

「…何をしてるの?」

相手の姿も見ないで、
ただ窓の外に降る雨を眺めながら
嘲笑を込めて告げる。


「何って…抱きしめてるんですよ?」

「…君、馬鹿…?」


人の肩口に顔を埋めて、
変態じみた台詞をさらりと言う。
たまにテツは可笑しくなるな。


「今日は随分と大人しいんですね?」


何時もなら既に二発以上
攻撃されているのに…と、
笑みを零しながら彼は僕の顔を覗き込む。


「雨だからね」


まるで何でもないように告げるが、彼は綺麗な顔を不安気に歪めた。
まぁ、確かに。僕がこんな風に正直に話すなんて珍しい事だし。


「…雨が、嫌いなんですか?」


言葉を慎重に選びながら告げる彼が、
なんだか可笑しくて。
少し笑みを浮かべながら
彼に身体ごと振り向き、
自分より少しだけ低い位置にある
綺麗な水面の瞳を見上げた。


「違うよ。雨が怖いんだ。」


彼の瞳が戸惑いに揺れる。
彼は困ったように言葉を紡ぐ。


「雨が、どうして怖いんですか…?」


そうだね、君になら話しても良いかも。
あぁ…本当に今日はどうしたんだろう?


「雨は…冷たいから。冷たくて、全てを洗い流しちゃうだろう…?それが…怖い。
 でも、一番怖いのは、物質との境界線があやふやになる事。」


そう告げると、彼の水面の瞳が
切な気に歪められる。





「雨の気配が強すぎて、物質同士の存在感が薄くなる。
僕は今、本当に此処に存在するのか、
目の前の君は本物か…
物事全てに現実感がなくなって
…目の前の現象すらも信じられなくなる…
だから、雨が怖いんだ。」


彼の肩に顔を埋めて、一息に吐き出す。
彼は優しく僕を抱き寄せた。


「赤司君…。僕は此処にいて、貴方を胸に抱いています。
 そして貴方も、今。
確かに僕の胸の中にいますよ?」


真摯な瞳を僕に向けて、
僕より大きな手で、僕の髪を梳く。


「貴方が雨を怖がるなら、
雨が降る日は貴方の存在を
証明する為に傍にいましょう。
 貴方が雨を怖がらない様、
一晩中抱き締めていましょう。
 それでも貴方が雨を怖がるなら、
雨を気にする暇などないくらい、
僕に夢中にしてみせます。」


僕では嫌ですか?

耳に直接問い掛けられ、
身体が震える。

髪を梳いていた彼の手は、
いつの間にか頬に添えられていて。




彼の体温が
伝わってくる


彼が存在する
証明の様に




ふと、お互いの視線が絡みあって、
どちらかともなく口付けあった…。







熱が伝わる。
生きてる証。


心地良い、
君の熱…



君が傍にいてくれるなら















も怖くない。
















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