無自覚恋愛感情


「手前喧嘩はすんなって
何度言われりゃ解んだよ。」

「大輝、煩いよ」




京都警察署内のある一角で、
お決まりになった青峰大輝と
赤司征華の痴話喧嘩が勃発し、
周囲から笑いが零れるが、
毎回注意しても聞く耳持たずな
征華に青峰は辟易していた。



「征華、」

「煩い黙れ刺されたいのかい?」



そう言って取り出された征華の得物。鋏。
(没収するの忘れてた!)
鈍く銀色に光るソレが、
大輝に向かって振り降ろされたが、
何時まで経っても衝撃はなく
疑問に思って征華の後ろを見ると、
暴れる征華を優しく後ろ手で
押さえ込んだ同僚である
黒子の姿があった。



「随分可愛い娘さんを
補導したんですね、青峰君。」

「テツっ」

「は、なして…っ」



洛山最凶と恐れられる征華が
本気で暴れているのにもかかわらず、
黒子は身じろぎ一つせず
楽しそうに征華を眺める。


「成る程。綺麗な華には
刺があるって事ですか。
でも少しばかり
己を過信し過ぎですよ?
気をつけないと痛い目に遇います。
こんな風に。」



黒子は征華の額に
軽くデコピンして
後ろ手で拘束していた手を
解いた。



「それじゃあ。」




征華の頭を動物を
可愛がるように撫でた後、
失礼しましたと、
何もなかったかのように
爽やかな笑みを浮かべ
巡回へと向かう黒子を、
俺も征華も呆然と
見送るしか出来なくて…。
先に我に返ったのは、
やはりというか征華だった。



「…っ、信じられない!
髪の毛ぐちゃぐちゃになった!」



真っ赤に染まった
初めてみる征華の表情。



(何でだ…凄く苛々、する…。)



どろどろと己の胸の中が
渦を巻くのが解ってるのに、
それがどの感情と
繋がっているのか解らなくて
更に苛立った。









そんな事があってから、
何故か巡回中に黒子と征華が
一緒にいる姿を
見かけるようになり、
自分以外の相手に
簡単に補導される征華が
凄く憎らしく思えた。
(何か、俺らしくないよな…。)

先程目撃した征華と黒子の姿を
思い出しながら署内で
書類を纏めていると、
黒子が巡回から帰って来た。



「彼女、可愛いですね。」



隣のデスクに座りながら
話し掛けられた内容に
胸がざわめく。



「…手、出すなよ。」

「難しい、かもしれません。」



知らず声が低くなり
睨み付けるように
黒子を見ると、
黒子は飄々とした笑みを
浮かべたまま。

しばしの睨み合いの後、
ふ、と黒子の表情が緩んで
ハハハハ…と、
さも愉快そうに珍しく
大声で吹き出した。


「テ、ツ…?」

「ああ、まさか本当に
気付いてないなんて…
貴方達って…クククッ」

「何なんだよっ」



訳が解らないまま笑われるのは
かなり腹立たしい。
半ば自棄になりながら
声をあらげ理由を問えば
返って来た答えは



「“恋”してるんでしょう?
貴方は、赤司征華に。」



と言う、あまりにも
突拍子もないものだった。



「…っまさか!アイツは高校せ…「なら僕がアプローチしても構いませんよね?」

「な…っ!」

「ほら、認めて下さい。
これは“恋”でしょう?」

「………」



確かに“恋”と感情に
名前を付ければ
今までの苛立ちや
胸に渦巻いた靄が
なんだったのかが説明がつく、
だが…。



「一つ、良い事教えてあげます。
彼女、赤司征華と僕が頻繁に
会っていたのはー…」











「征華…っ!!」

何時もの様に
恨みを買った相手を土手で倒す
征華の姿を見付けて
勢いよく駆け寄り、
征華の身体を抱き上げて
走り出す。



「ちょ…っ邪魔しないで
くれないかな…!」

「うっせぇ!
こっちは大事な話があんだよ!
黙って担がれてろ。
でねぇと補導すんぞ。」

「………。」



補導と言う言葉が効いたのか
抵抗を辞め大人しくした征華を
確認し、その場を後にした。








少しばかり離れた公園に
多少息切れしながら辿り着き、
征華を降ろす。
征華は折角の退屈凌ぎを
逃がして不機嫌なまま俺を見上げた。


ドキドキと、
走ったせいだけではない
鼓動が脈打つ。

喉の奥が、カラカラ。
どうしていいか分からず、
頭が真っ白だった。



「大輝?」



俺を心配した征華が
小首を傾げて下から覗き込む。
嗚呼、なんで自覚しちまうと
一々可愛いんだよ!

我慢出来ずに征華を抱き寄せた。



「大輝、」

「俺、…征華が好きだ。」



思っていたより
すんなりと出た、告白。
でも声は掠れて
抱き締めた手は震えている。
カッコ悪ぃ…と思いながら
征華の顔を覗き込めば、
征華は切れ長な目を
零れ落ちそうなくらい見開いた。



「その、なんだ…。
俺も先刻気付いて…
混乱してるんだ、けど…よ、」



あたふたと告白した後に
慌てるなんて
どうかしてる。中坊か!
けど、自分の気持ちが
征華に届けば良いと、
必死に言葉を紡ぐ。
無言が痛い。



「あー…、その、なんだ…。
嫌、だったか…?」



10歳も離れてる男に
告白されるのは
最近の女子高生にとっては
気持ち悪い事だったのかも
知れない。
きっと最初から対象外
だったのだ。



「悪ぃ…」



抱き締めていた手を
離そうとした瞬間、
征華は俺に抱き着いて来た。
征華は俯いていたが、
俺の身体に回った腕は力強く
ただ俺の体幹より
征華の腕が短く
少々苦しい。
征華は意を決したように
顔を上げ、真っ直ぐに
俺を見上げ口を開いた。



「大輝」

「ああ、」

「大、輝」

「おう」

「…大輝といると、
心が締め付けられたり、
あったかくなったりするんだ…。」

「征華、」

「僕も大輝が好き、だよ。」



だから、離れないで。



初めてふわりと微笑んだ
彼女を腕の中に閉じ込め
可愛いらしい桜色をした唇に
口付ける。
触れるだけで直ぐ離れた。

遠慮がちに己の背中を掴む
小さな手が震えてるのが解る。


この小さな手を守っていこう。


絶対放さない。


それを伝える為、
今度は深く口付けた。










無自覚恋愛感情。

 自覚したら止まらない!




















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