花時雨は夢に散る。

にょた→征華・テツナ
二人は双子












しとしとと雨が降る。



こんな日は酷く調子が悪い。










 




「ぅーっ…湿気で髪の毛が
纏まりません…」


かれこれ鏡の前で20分。
髪の毛を必死で
纏めようとしていた
テツナが櫛を下ろす。
そういえば今日は番犬…もとい
大輝と出掛けるのだと
昨日から(分かりづらく)はしゃいでいた。



「征…っ」



半分涙目で助けを求めて
振り向くテツナに、
仕方がないと苦笑して、
「どんな髪にしたいの?」
と訊いてあげれば直ぐに
分かりづらい笑顔に戻る。
僕はテツナのこの表情が
大好きだ。
自分には決して
出来ないものだから。

殆ど同じパーツなのに、
何処までも違うテツナが
愛おしく思える。


5分もかからず髪を結い終え、
待ち合わせに遅刻しないように
と送り出すと
広い部屋に一人きりとなった
僕は珈琲と
甘くないチョコレートを
お供に読書に耽る事にした。











気が付けばもう21時を回る頃で
食事を摂取する
気も起きなかったので
部屋に戻ろうと
立ち上がった時に
窓に目がいき、
雨が一段と激しくなっている
ことを知った。








雨はキライ。




僕は裸足のまま外へ出た。






夏の雨は温く、僕を包み込み、
何処からか、お日様と土の馨が
漂ってきて僕の心は激しく乱れる。




笑顔は苦手

 -僕には似合わない-
雨は嫌い
 -何も見えなくなる-
独りは苦手
 -僕はそんなに強くない-
夏は嫌い
 -僕に1番似合わない季節だから-









嗚呼、いつから自分は
こんなにも弱くなったのだろう。





雨は、好き。
 全てを隠してくれるから。




頬を伝うものは無視して
今はただ溺れていたい。


この闇に、思考に。
ドロドロに溶けたら
何か変わるだろうか…









「ーー赤司っち!!」



自分の名前が呼ばれたのと
同時に背中に感じる温かい体温。
紺布の傘が地面に落ちた。


僕はこの体温を知っている。
抱き締めてくる腕の力の強さや
首を擽る柔らかな毛先が少し傷んだ金髪。



自分が求めていた人。



「何で雨が降ってる中、
外にいるんスか…。」



耳にかかる吐息が熱い。



「ああもう…っ
こんなに冷え切って!」



心配する低めのテノールが鼓膜に響く。



「身体弱いくせに、
無頓着過ぎるッスよ…」





緩んだ腕の中で向き合うように
振り向くと心配する彼の瞳が
自分を映して揺れた。



「りょ、…」
「はい」
「…りょ、た…っ」
「はいッス」
「りょうた…っ」



歪む視界は決して
雨のせいだけではなく、
抑え切れない衝動のまま
腕を涼太の首に回して抱きつく。



「大丈夫ッス、
赤司っちはは独りじゃねぇッスよ。
何より俺がいるじゃないッスか」
「ーー…っ」




溢れた涙は全て涼太に奪われて
それで安堵する自分は
愚かだと思った。










抱き締められたまま眠り、
早朝目を覚ますと
雨は止んでおり
世界は雫に包まれ
美しく変化を遂げていた。








しとしとと、雨が降る日は
普段の自分を保てなくて
酷く調子が悪い。

こんな失態を
彼の前で演じてしまう雨の日は
やっぱり好きになれそうもない。










花時雨は
  夢に散る。

 (甘えることは出来ないの)
















 








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