理由。

 



「君は、何で僕の傍にいるの?」




僕は片付けていた書類から手を離し、
ずっと気になっていた事を、
隣に座って本を読む黒子テツヤに尋ねた。



…凄く不本意だけど。











理由









彼は部活が終わった後、
部室に居残っては
何をするわけではなく、
本を読み出したり仕舞いには
寝てしまう事も少なくない。


疲れてるなら帰れば良いと思う。
次の日もキツイ練習メニューが
容赦なく準備されている訳で。
何より彼は人より体力がなく
良く床とお友達になることも
少なくない。

体調管理も自己責任の一つだが
キャプテンにも課せられた問題だ。
僕も甘く見られたものだよね。


でも、そう…。
実際に、彼…黒子テツヤを
無理矢理にでも部室から
追い出す機会は
この一週間を振り返ってみても、
実はかなりあった。

その全てを、
僕は棒に振ってきたわけで。

なんで、そんな無為な事を
してたんだろうと、思いはする。


彼は読んでいた本を
ゆっくりと閉じ、
視線をこっちに向けた。
綺麗な空の瞳が優しい色合いで
僕を映す。

彼は微笑みながら、



「…理由が必要ですか?」



と、質問を質問で返してきた。



「人は理由もなく行動を
起こさないよ、テツヤ。
何か僕に相談事でもあるのかい?
それなら僕より桃井のが適役だ。
此処に留まるのは得策じゃないね」



僕は溜息を吐きながら、
胡乱気に彼を見る。
彼は少し寂しそうな顔で
僕の視線を受け止めると、



「僕はですね、赤司君。
君に逢いたいから…。
理由もなく、
キツイ練習が終わった後でも
この部室で、毎日傍にいるんですよ。」



なんて、彼が
言うものだから。

僕の顔に血液が集中して、
一気に顔が赤く染まった。

彼が驚いて僕の顔を覗き込む。
僕は慌てて両腕で真っ赤な顔を
隠そうとするが、それより早く
彼の腕が僕の腕を捕らえて、
顔の両脇に固定する。

なんたる醜態。帝光中で最強の
名を恣にしている、この僕が。
碌に抵抗も出来ず、一番赤面を
見られたくない奴に、
こんな至近距離で見られるなんて!

なんて考えていると、
手首を掴む力が強まり勢いよく
引き寄せられ次の瞬間には
抱きしめられていた。

心拍数が異常に高まっていくの
と共に、更に顔が赤くなってい
くのが判る。
軽いパニックのせいか身体が
動かせず、彼に身体を預ける様
になってしまった。



「赤司…、君……」



耳元で囁かれる、
己の名。
熱くて掠れた声…。
でも優しくて、
切ない…。



ココロが、震えた…。





「赤司君……、赤司君…。
僕は…、君が。…好き、なんです。」





「君の事を考えない時間はなくて、
君が傍にいないと息も出来なくなるんです…。
君に拒絶されるのが怖くて、
今日まで言えずにいました。
傍にいることを、どうか。
赦してください…
愛しています…。愛してる…。」



彼の声は今にも泣き出しそうで、
僕の胸を締め付ける。

まるで迷子になった子供が、
親と再会したときのように。
彼は腕の中の僕を、力強く抱き締めた…。


縋るように、離れないように、
骨が軋む程、強く…。

僕は、そんな彼を。
ただ黙って抱き返すことしか
出来なかった。








どれくらい経ったのだろう…。
辺りが橙色から藍色に
染まりきった頃、
テツヤは僕を抱き締める腕の
力を抜いた。

そっと、僕の肩口から顔を上げ
情けなさそうな顔で微笑む。



「…すいませんでした。
ご迷惑をおかけして…。
もう…、部活以外で
此処には来ませんから、
安心してください。」



なんて、自分勝手な奴。
言うだけ言って、
僕の返事は訊かないの?
散々待たされて、
苛々してるんだよね、僕。





僕は離れようとするテツヤの
身体を襟を引っ張ることで阻止し、
その勢いを借りてテツヤに口付けた。

テツヤは驚いて目を見開き
空の瞳を揺らす。

それを見た僕は、
急に自分の行動が
恥ずかしくなり
唇を離そうとした。
…が、その行動は
テツヤの右手が
僕の後頭部を
拘束したことにより制され、
口付けをより深いものに
変貌させられるきっかけとなる。

テツヤの舌が僕の唇を舐め、
歯列をなぞり、
口内へと侵入を果たす。
舌を絡め捕られ、
強弱をつけて吸われる。
上顎など敏感な部分を
執拗に刺激され、
僕はただ身体を快感に
震わせることしか出来ずに
腕を回していたテツヤの背中に
しがみついた。
僕の口の端からは、
どちらのものか判らない唾液が
伝っていく。
酸素不足で頭が朦朧としてきた。
“限界だと”背中を強く叩くと
テツヤはこれで最後と言った感じで、
人の口内をもう一度、
一通り貪った後に僕を解放した。

僕は肩で息をしながら、
うっすらと涙が滲んだ瞳で
自分より少し低い位置にある
テツヤの瞳を射るように見る。



「……っは、
僕のことを考えない
時間がないなら、
僕が傍にいないと
息が出来ないなら、
僕の傍にいれば良い。
僕は君を拒絶なんてしないのに…
君は、馬鹿だよ…
傍にいて。
もう此処には来ないなんて言うな…。
僕も君が好きだから…っ
離れていくなんて赦さない…!」



テツヤはまた、
呆気に取られた表情をしたけど
直ぐに微笑んで。



「ふふ。今日は赤司君に
驚かされてばかりですね…。」



と、言いながら
人を抱き寄せ
己の膝の上に横抱きにする。



(…全く。調子良すぎだよ。)



なんて、
心の中で悪態を吐きながら、
少し安心している
自分がいるのは、内緒。



「もう一回、
…キスしてもいいですか?」



甘えるように上目遣いに
訊いてくる君。




「いいよ。」






今日だけは、君が望むなら。
何度でも。









(理由なんて、
こじつけか後付けが多いけど。)


(でもそれが恋なら、結構素敵じゃない?)







 









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