赤司征華の憂鬱。

にょた→征華
桃井と幼馴染み設定








幼なじみである赤司征華は
自他共に認める絶世の美少女だ。
加えて頭脳明晰、運動神経も良いとなると
厭味にしかならないが、
彼女はそれを歯牙にも掛けない
さっぱりとした物言いで
人に好かれる。
しかし、それらを全て足しても
マイナスにしてしまう程に
彼女の性格は破綻していた。

そんな彼女が
同じバスケ部の
大切なキセキの仲間でもある
紫原敦と付き合い出したのは
3ヶ月前の事。

それは青天の霹靂で、
帝光学園に衝撃が走ったのは
言わずもがな。
しかし付き合い始めたと云っても、
彼らの犬と女王様という関係性は
全くもって変わらなかった。



「だって僕と敦だよ?」



と軽やかに笑っていた征華の姿は
記憶に新しいのだが、
ここ最近笑顔に覇気がなくなっているのを
征華の幼なじみである私は
見過ごさなかった。




 



 



「…で、何があったの?」



補習で居残りをしている
ムッ君から
征華を強奪して自宅に連れ込み
問い質す。

征華はだんまりを
決め込んでいたが
もとより幼なじみの
私には弱い為、
数分もしない内に口を割った。




事の始まりは三週間程前。
ムッ君とのデートから帰って来たら
ポストに汚い字で
“オマエは俺のものだ"と
書かれた一枚の紙から
始まったのだという。

それから奇妙な視線が
付き纏うようになり、
身近な物が、消しゴム、
シャープペン、ハンカチと、
一つずつ消えていって、
最近では自分が映っている写真に
ザーメンがこびりついた状態で
ポストに入れられていたり、
昨日なんかは家の玄関前に
オナニーの後があって、
流石に怖くてホテルに
泊まった事を
征華はゆっくりと話してくれた。



「なんでムッ君に相談しないの?」



話を聞いて私の浮かんだ疑問はこれ。
二人は付き合ってる訳だし、
征華がこんな目に遭っているのなら
ムッ君は黙っていないだろう。



「敦に言える分けないよ!」

「だからなんで」

「…………」

「せーいーかー?」

「いくらさつきでも言えない!」



顔を真っ赤にして
首を横に振る仕種は
常の彼女にしては子供らしく、
私はそれ以上の詮索を
止める事にした。



「取り敢えず今日は私の家に
泊まって行く事。」

「さつき…っ」

「もうすぐ大ちゃんも
帰って来るから。
此処はそこらのホテルより
安全だと思うよ。
そうでしょう?」



畳み掛けるように云えば、
征華は何も言えなくなり
(それはそうだ大ちゃんは視線で
人が殺せるって噂が立つくらい
目付きも悪ければ喧嘩も強い
でも一番安全なのは
ムッ君の傍だと思うんだけれど。)



「さつき…、」

「なあに?」

「………、あ、りがと…」

「どう致しまして!」










 
あれから大ちゃんが帰って来て、
征華の事をかい摘まんで話すと
大ちゃんは怖かっただろうと
征華の頭を撫でた。
その後犯人を探しに行って
殺すと騒ぎ出したのを
征華と二人で止めるのが
大変だったのは内緒。
若干そこまで想われる征華が
羨ましかったが
私はそれ程心のせまい人間ではないので
見過ごす事にする。
でもその後一緒に
お風呂に入ったり
一緒の布団で
寄り添うように寝たので
凄く役得だった!




さてはて、
蛇足的な私の心は横に置いといて。
朝早く起きて、大ちゃんと
外へ出たら、まあ。
やっぱりというか、
凄い事になっていた。
…玄関が。



扉には赤いペンキで
“アバズレ"と大きな文字で
書かれてたし、
いやーな栗の花の臭いが
充満している。
扉に付いているポストを
確認すれは沢山のザーメン。
そのザーメンの中に
メッセージカードが
一枚埋もれていたので
ゴム手袋を
幾重にも付けて取り出すと、



尻軽は死ななきゃ
治らないんだろうな。
お前が誰の物が判らせてやる。
一緒に逝こう。



と、ミミズの這ったような文字で
書かれていたのを確認し
破り棄てる。
出来るものならやってみろ。


取り敢えず征華が起きる前に
全て片付けてしまおうと、
私と大ちゃんは掃除を開始した。












綺麗に掃除をし終わった後、
1時間もしない内に
征華が起きて来たので、
取り敢えず珈琲を渡す。

征華は、朝食を摂らない質なので、
珈琲には多めのミルクと砂糖が入っている。



「…甘い……。」

「ブラックは胃を荒らしちゃうよ」

「ん…、」



取り敢えず休日の今日に感謝して
如何に征華を守ろうかと
思案しながら
私も甘い珈琲に口を付けた。





 



 

ゆとり教育の代名詞とも云える
土日の連休が終わり、
私と征華は学校へ向かうべく
駅に居た。



征華は二日間の間で
大分落ち着いたらしく、
人間観察をしつつ
笑みを浮かべている。
少しばかりの変化であるが、
最近が最近だったので
酷く喜ばしい。
やはり私も
この我が儘な幼なじみには
弱いと云う事なのだろうな。
私も大ちゃんも張っていた緊張が緩む。















それが、いけなかった。











特別快速が通過する
アナウンスが流れ、
段々と煩い音が近付いてきたと
思った瞬間。



突然現れた見知らぬ男に
腕を取られ、
線路へと道連れにされる
征華の恐怖に歪んだ顔を、
私達は見ているしか出来なかったのだ。












 

「征華…っ」



叫んで、差し出した手は
届かずに空を切る。


絶望で声も出せなくなった私の横から
細身だが筋肉が程よく付いた
長い腕が伸ばされ、
征華の手を取った。
その腕が、
力任せに引き上げた為に
征華を抱えるように
道連れにしようとした男も
一緒に引き上げられる。


特別快速の電車は、
停まらずに通り過ぎていった。



「ぁ…、あつ、し……?」



震える声で
征華は自身を引き上げた人物の
名を呼ぶ。
長い紫苑色の髪をした男
…ムッ君は、眉間に皺を寄せ
不機嫌を表にした。



「…何してんのさ…!」



ギュ…ッと征華を抱き締めた
ムッ君の腕の力は、
征華が傷付かないように
気を遣いながらも、
結構強い力のようだったが、
征華は嬉しそうに
ムッ君の背に白い綺麗な手を回す。
そんな征華に、
ムッ君は少しホッとしたように
征華の長い髪に顔を埋めた。



「なんで相談してくれないの…」

「…………、」

「赤ちんー?」

「………だって」

「ん?」

「だって、ストーカーなんかに好かれて、
ストーカーなんかに精神的に追い詰められて、
ストーカーなんかに道連れにされそうになる
女の子なんて敦は嫌いだろ…?」

「は…?」

「敦と付き合って三ヶ月だけど、
僕、誰にも屈しない
歴然とした態度をしてる事ぐらいしか
敦に好きになって
貰えるようなトコないんだよ…!
だから、だから…っ」



征華は堪えられなくなったのか、
声を詰まらし、
紅と琥珀の瞳からポロポロと
涙を溢れさせた。



「………っ
敦、やだよ…
嫌いにならないで…っ」



声高に泣きじゃくり始めてしまった征華に
ムッ君はアタフタとしながらも、
この機に乗じて逃げ出そうとした
臨美のストーカーを見逃さず、
ストーカー目掛けて
自分の鞄を投げ
再起不能にしてから
征華に向き合う。



「赤ちん馬鹿だねー。」



私もそう思うが、
このタイミングで云うべきではないよ、ムッ君。
その証拠に、
征華は呼吸困難に
なってしまうのではないかと
心配する位しゃくり上げ、
暴れ出してしまった。



「…っあつし、のばかぁああ…っ
さつきぃい…」

「はいはい。大丈夫だから征華。
私は此処にいるよ。
征華も怪我ないね?」

「…っ、ぅん」

「良かった良かった。」



吃驚して緩んだ
ムッ君の腕から逃げ出し、
征華は私の腕へ身を預ける。
悪いのはムッ君なんだから
殺気立たないでよ。



「さ…き、さつき…っ
つし…が、
あつしがぁあ…っ」

「もー。赤ちん!ちゃんと聞いてー!」



ベリッと勢いよく
私に張り付いていた
征華を剥がすと、
ムッ君は征華を睨みつけ…否、
睨みつけるような視線で
見詰める。



「俺はね、赤ちんが、誰にも屈しないとか
いつも歴然とした態度を
してるからってわけで、
好きになったわけじゃないよー。
確かに最初に興味惹かれたのは
そこかもしれないけどぉ。
そこだけじゃない。
俺は赤ちんが思うより
ずっと赤ちんの事が好きだよ。」



判ったー?
と、云ったムッ君の顔は
緩みきっていて
色男が台無しだ。
しかし、征華の涙は止まり、
至極嬉しそうに微笑んで
ムッ君の肩に顔を埋める。



嗚呼、私も
彼氏欲しいな。






赤司征華の憂鬱。

 そんな心配要らなかった!

















 








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