夢と知りせば。

※教師黒子×女子高生赤司
ちょっと性的表現あり。






彼女は、美しかった。
ただ、其処に立っているというだけで。

気高く、凛とした、
1輪の薔薇のように…。





「また主席だってー輝夜姫。流石だよねー。」

「毎年赤点の俺らとは偉い違いだな!」

「笑い事ではないのだよ!」

「…でも、確かに俺達とは出来が違うッス。輝夜姫は。
住む世界が違う…って、ああいう人のこと云うんだろうな…」




此処は英国の片田舎にある、
緑に囲まれた厳粛な寄宿舎。
多くの学生は親に将来を
期待され此処に存在する。

立派な跡継ぎになるように。
良い大学に入り、
良い会社に入れるように。
落ちこぼれるなど赦さないと。

子供の気持ちなど無視して。

少数の学生はもっと酷い。
体の良い厄介払いの為に
入れられているのだから。

寄宿舎に入れていれば
顔を見ずに済む。
更に言えば、寄宿舎にまで
入れてやっているのだから
感謝されこそすれ、恨まれる理由はない。
嫌なら消えてしまえ。
その方が此方としては
お金が浮くから万々歳さ。
という思惑がありありと
感じられるわけで。

必要とされていない子供には
気持ちだけではなく人権すら
無視されているのだ。

僕はそんな学校の
一教師であり、
その少数派の卒業生でもある。



「全く。下校時刻は当に過ぎていますよ。」



最近この寄宿舎の何処にいても
噂されている
“輝夜姫”という言葉に立ち止まり、
それを話しているのが
己の受け持つ生徒だと気が付けば
頭痛がするのも通りだろうか。
こめかみを押さえながら
教室の扉を開けると
やはりクラスの問題児である
青峰大輝・紫原敦・
緑間真太郎・黄瀬涼太の4人組が
机を囲んでいた。



「げ…っ!テツ!」

「黒子先生、さようならー」



人の顔を見て真っ青になりながら
ガタガタと脱兎の如く
帰り道を急ぐ彼らを見て
ため息が一つ漏れながら
「せめて他の先生には
見つからないように帰りなさい。」
と彼らの背に忠告を。
「はあーい」と、
何とも気の抜けた返事に脱力。



「…本当、輝夜姫の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですね…」



住む世界の
違う人間など、何処にもいやしない。

そうでなくてはならないのだ。







この寄宿舎を騒がせている“輝夜姫”。
本名は赤司征華。
中等部2年に3ヶ月程前に
転入してきた東洋人。
そもそもこの寄宿舎に東洋人は珍しく、
またその麗しい美貌が周囲の目を惹いた。

そして誰とも無く
東洋の古典に出てくる絶世の美女
(傾国の美女かも知れない)に
例えるようになるには
大して時間は掛からなかったと思う。

彼女の性格を現すように
まっすぐと腰まで伸びた赤髪と
見たものをまっすぐに射抜く、
赤と金の二色に吸い寄せられそうになる
大きく切れ長な瞳。

東洋人特有の華奢な体系は
マリリンのような
派手な色気はないものの、
慎ましやかに隠されたラインは
スレンダーで有りながら
美しく、
背徳的な何かを掻きたてられる
というものだ。

そして東洋人…
というか日本人の特徴だろうか。
彼女には体臭がない。
我々西洋人は体臭を隠す為に
様々なコロンを多用するのが
一種のステータスである。
しかし彼女はコロン類は一切使用せず、
ただ清潔な石鹸の馨だけを纏っている。
最近は本国から送られてきた
お香というものを
愛用しているらしいが
コロンの強い香りになれている
西洋人にとっては
慎ましやかな馨は媚薬に似ていた。


否、彼女は
彼女自身が媚薬に近い。


夕刻が近付き、
教室に影を落とし始めて漸く
見回りを終え帰路につく。
帰路と言っても
寮監も兼ねさせられている身だから
5分もすれば着く寮へ向かうだけだ。

昔は遊びにも行けない
この箱庭にかなり反感を抱いたが、
監督する身の視点としては
確かに小さい箱庭は目が届かせやすい。

しかし若くても若くなくても
毎日見る景色が同じというものは
ストレスが溜まるものなのだと
実感させられる。



今日何度目か解らない
溜息を漏らしながら
寮監室の扉を開けようと
視線を上に向ければ
先程教室で問題児4人組が
噂をしていた“輝夜姫”が佇んでいた。







「……か、ぐや…姫、?」

「お帰りなさい、センセ。
遅かったね。」







たった一度。
そう、たった一度だけ。

噂の彼女を、
寮の裏手にある温室で見つけた。

温室には様々な種類の薔薇が
揃って咲き誇っており、
彼女はその真ん中に佇んでいた。

彼女は噂通り美しかった。
ただ、其処に立っているというだけで。

大輪の薔薇に負けないくらい。

気高く、凛とした、
1輪の薔薇のように…。



でも
僕は同時に見てしまったのだ。


美しい薔薇が持つ、
恐ろしい毒を………。






「黒子、先生?」



間近で響いた声にハッとする。
無意識に喉が鳴った。
僕はまるで警告音のように
段々と煩くなっていく心音を
どうにか遣り過ごしながら
昔この寄宿舎で培った
ポーカーフェイスを纏い
彼女を真っ直ぐ見つめた。



「…っ何か御用ですか、輝夜姫。
寮則を破るとは…貴女らしくないですね。」

「輝夜姫、ね。」

「用がないならお帰り願えますか?
これでも寮監なので仕事があるんです」

「………ツマラナイ、な。」


彼女は俯きながら何処か人を
嘲ったように口の端を上げる。



「何が、ですか」

「ツマラナイ。この間温室で会った時は
そんなツマラナイ表情、
していなかったのに。」

「………」



この先を聞いてはならない、
回らない頭の片隅で
それだけが理解できる事だった。
彼女は固まってしまった僕を
面白そうに観察している。


…不意に、目が合った。


「ねぇ。態々会いに来てあげたんだから
あの時みたいな眼で僕を映してよ。」

「…言っている意味が計りかねます」



僕の言葉を
侮蔑するかのように眉を顰めた
彼女は
春の生温かい風に髪を遊ばせながら
強い、真っ直ぐに僕を射抜き
綺麗なカタチをした唇を開く。

 

「無自覚なのか?
あれで無自覚は罪だよ」



だって、
あの眼に僕は犯されたんだから。

君は薔薇の中に佇む僕を見て
欲情したんだ。
あの晴れた夕刻
薔薇の中で陵辱されていた
僕を見てね。

録に抵抗も出来ずに
乱暴に突き上げられて
唇を噛み締めて
震えている僕に




「でも貴女はその後、直ぐ…っ」
「僕を犯した奴らの血を啜った。」



淡々と言の葉にされていく真実に
耐え切れなくなり
僕は絶叫するように言ったけれど
その声に被せる様に彼女は
己の毒を語る。



「低俗な奴らの血は酷く不味かったけど
好き嫌いをしている
余裕はなかったからね。
此処は立派な寄宿舎だ。
皆規則を守る。」

「君を犯した生徒は…、
未だ行方不明です」

「ああ。今頃は凍て付いた川底にでも
沈んでいるんじゃない」

「なんて事を…っ」

「先に無体を働いたのは
あっちだ。当然の報復だろう
もう低俗な奴らの話は飽いた。本題に入ろう。」

「な…っ」

「黒子テツヤ。
君は僕が陵辱されている姿に
欲情したんだ。
そして僕が奴らの
血を啜っている姿を見て、
さらに、ね」

「…っ、何を根拠に」

「その眼だよ。
君の眼に暗い焔が宿ってる。
君に見られると、
まるで視姦されているように
身体が疼く。」

あれから僕を見掛ける度
そんな眼で見てきて…無自覚?
センセってば童貞なの?

くすくすと軽やかに微笑む
少女の表情は厭に妖艶で
ああ、この娘は既に
男を知っているのだと
痛感する。

彼女の
視線が
髪が
手が

彼女の全てが
男ーボクーを誘惑する。


気が付けば僕は彼女の腕を掴み
強引に寮監室へ連れ込むと
ベットの上に押し倒していた。

彼女の雪のように白い肌に
獣の如く貪り付きながら
痕を遺す。
痛みを伴うそれに彼女は微笑み
嬉しそうに享受した。

荒々しくまるで初めて女を知った
思春期の生徒のように
我武者羅に彼女のナカを暴く。

雪に堕ちた血のように
紅い頂き。
力を込めたら折れてしまいそうな腰。
桜のように淡い秘処は、
桜のように清純ではなく
男を誘う色香を漂わせている。

触れたことのない場所がないくらいに
彼女に触れた。


達しても達しても
止まらない飢餓感。
彼女の甘い唇に
彼女の水膜の張った瞳に
柔らかく包み込んでくる秘処に

何度も何度も
欲情する。



夜が白々と明け始めた頃、
薄れゆく理性の中で
この美しい少女になら
己の血をあげても良いと
漠然と、でも確かに
そう思った。



しかし、彼女は一度も
僕にその美しい牙を
突き立てようとはしなかった。














あれから数ヶ月が経った。

僕は彼女を忘れられないでいる。

僕が彼女を犯した次の日、
彼女はこの学園から
姿を消していた。

僕以外誰一人彼女を覚えていない。
あんなに噂をしていた
問題児4人組でも、だ。

不思議な事に
彼女を犯した奴らも
彼女が消えた翌日には
戻ってきた。
行方不明になっていた間の
記憶は一切ないらしく
悪さばかりしていたから
妖精に悪戯されたのではないかと
長いこと噂になっている。


彼女は何処から来て、
何処に消えたのか

何の為にこの寄宿舎に
やってきて
何の為に僕に
抱かれたのか。

考えれば考える程
分からなくなる。

最近は、元々彼女は存在しなくて
僕が描いた都合の良い夢
だったのかも知れないと
思うようにまでなった。

でも
この目には彼女の白い肌が
この耳には彼女の甘い声が
この身体には彼女の熱が
確かに染み付いている。


「赤司…征華、」




 
   永久の眠りと知りて眠れ。




彼女が微笑む音がした。















 









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