Call my name。

※駅員青峰×女子高生赤司






桜が華やかに咲き乱れる、
そんな日に。
俺はアイツと出会った。



「ねぇ、定期を落としたんだけど。」



切るのが面倒なのか、
すぼらに長く伸ばしているのが
バレバレな前髪に瞳は隠されて、
どこかくたびれたセーラー服を
身に纏った少女が、
不遜とも言える態度で駅員である俺に
声を掛けてきた事に驚きつつも、
各駅員に連絡を取ると
本日の落とし物には
回収されていなかった為、
名前と連絡先を聞き取り敢えず
今日は帰るように促すのが
普通なのだが、
何故か俺はこの少女を
放っておくことが出来なかった。



「この駅で落としたのは確かなのか?」

「僕が嘘なんて吐く訳ないだろう。利益もないのに」

「…ソウデスネ」



ずぼらでダサいヤツの横柄な口調で、
手を貸してしまった事を
後悔したのは言うまでもない。




 


屈んでいた腰を伸ばすと
ズキリと鈍い痛みが走り
歳は取りたくないと青峰は
切実に思った。
溜息を吐き視線を下に戻すと
太陽の光を反射する物が目に入る。
それを手に取ると“アカシ セイカ”と云う名の入った定期で。



「…っ有った!」

「本当?」



彼女の方へ振り向き定期を手渡すと
ホッとしたような表情を
浮かべたような気がして
青峰も嬉しくなる。



「ありがとう。」



その言葉と共に吹いた風が
彼女の顔を露にした。



「……………っ!」



彼女の瞳は美しい朝焼けの色と
琥珀色の二色を持っており
肌は雪のように白く透き通っている。
目鼻立ちはくっきりしていて、つまり。



ずぼらでダサい彼女は
絶世の美少女だったのだ。







あれから1ヶ月。
青峰は毎朝毎夕、
彼女が改札口を通り過ぎるのを
勤務表が許す限り見送っていた。

見た目はずぼらな彼女だったが
時間には正確らしく
何時も同じ電車を遣っている。



(そろそろ通る頃か…。)



ホームに電車が流れ込み、
乗客が下車する。
しかし乗客が乗車し終え
電車がホームを出発しても
彼女は改札口に現れず、
勤務時間ぎりぎりまで粘った
青峰だったが
敢え無く帰路に立つ事を
余儀なくされた。


それが、3日間続くと
流石の青峰も焦り始める。


毎朝毎夕眺めていたのが
気持ち悪かったのだと
同僚に囃し立てられ、
徒歩2分の所にある隣駅からでも
あの学校には通えるのを知った時は
青峰は絶望するしかなかった。


しかし何故こんなにも彼女に
逢えないのが辛いのか、
青峰はその答えを容易に
弾き出す事が出来た。


ようするに。
一目惚れなのだ。












さてどうしたものか、
と青峰は落とし物のヌイグルミを
預かりながら悩んだ。
生まれてこの方、
青峰は言い寄られた事も
人を自分から好きになった事もない。

初めて自分から好きになった相手は
自分より10歳は離れた女子高生。
接点は改札のみ。

その接点もその彼女のせいで
失っている。



(嗚呼、八方塞がりだ!)



もう諦めようかと思う。
けれど視線が何時もの時間になると
彼女はいないかと
絶えず探してしまう。

そして今日も彼女は
青峰の前に姿を現さなかった。




しかし意外にも好機は
向こうからやってきた。


何時もの、
夕方の時間に。
彼女が
改札口を、
通り過ぎたのだ。


髪を短く切り、前髪も美しい朝焼け色の瞳が
はっきり見える程に
切り揃えられていた。
つまり、そう。
彼女の綺麗な顔が
万人に晒されていたのだ。



青峰は呆然とし、
同僚は彼女だと気付かず見惚れている。
(前髪で顔が隠れていた頃は
あんな暗そうなのの
何処がいいんだとか言ってた癖に!)



そんな青峰を余所に
彼女は青峰の方へ
どんどんと近付いてくる。



「ねぇ駅員さん。
落とし物、探してくれるかな?」


青峰は頷く事しか出来なかった。




 
 

青峰が落とし物は何かと
彼女に尋ねれば
小さな黄色い鳥のヌイグルミだという。



「嗚呼、それなら…」



青峰はガサガサと
落とし物を保管している箱を漁る。
つい最近届けが出された物だから
直ぐに見付かった。



「これだろ」



差し出した黄色い鳥のヌイグルミを
彼女に手渡すと
彼女は大切そうに握り締める。



「ありがとう、駅員さん。
流石だね。」

「…いや、でも見付かって良かったな。
アカシさん。」

「…!覚えててくれたんだ。」



彼女が目を見開いて
こちらを見て来るものだから
青峰はいたたまれなくなり俯く。



「き、気持ち悪いよな…。
すまな、い」

「そんな事ないけど。
…不平等、かな?」

「へ?」

「名前、教えてよ。」



駅員さん。
そう言って意地悪そうに笑った彼女は
やっぱり最高に美しかった。





(あ、僕の事は征華って呼んでね)(?!)

 







Call my name。

 ずっと名前で呼んで欲しかった!





 








 








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